何から書こうかと、まだこの執筆の画面を開いてもまとまっていないので、書きながらまとめていきたいと思う。相変わらず拙い文章だけれど、どう感じたのか素直に書いていきたい。
そして、前提として、私の故郷は長崎であるということをここに記しておきたい。18年間、生まれて育った故郷。
ここでは、原爆の父である彼をおペンさんと呼ぶことにする、なんとなくその方が響きがかわいいからね。
映画作品としての評価
めちゃくちゃ良かった。観終わった後、少し打ちのめされた。音、映像、そしてすごく計算された展開。ショックと、哀れみと、なんというか、頭の中がぐちゃぐちゃだった。すごい映画を観た、と思った。
観に行くにあたって、少しばかり心積もりが必要だった。事前に観に行った人の感想も読んだし、理解を深めるために登場人物についても少し調べていた。
なぜ心積もりが必要だったかというと、内容や描写によっては、おペンさんだけでなく当時のアメリカさんのことをものすごく憎んでしまう可能性もあるなと思ったからだ。自らすすんで観に行った映画で、嫌な気持ちにはなりたくないもの。まあ結果として嫌な気持ちになるシーンは勿論あったのだが。けれど、それ以上に映画として素晴らしい作品だったというのは間違いない。
クリストファーノーラン監督ということで、特別ファンであるわけではないけど、毎回監督の作品は楽しく鑑賞している。今回も、映画として最高に面白かった。かっこいい映像を作る人だし、魅せ方というか、この監督特有の時間の使い方だった。視点をモノクロと、カラーで2パターン魅せてくるのも面白かった。最初、過去の話はモノクロで現在進行形がカラーなのか?と思っていたけれど、視点別で色が違ったみたいだった。
3時間に情報量がものすごい詰め込まれていて、登場人物も多く、原子だの分子だの専門的な話に、政治的話、気を抜くと置いていかれてしまうため気が全く休まらなかった。
めちゃくちゃ斜に構えた態度で観に行ったので、冒頭でギリシャ神話のプロメテウスの名前が出てきたときに「へっ、なーにがプロメテウスだ、おペンさんはプロメテウスってか?何をそんなすべての始まりの神(炎を人間に与えた神)なんぞに例えちゃって。驕り過ぎでは??」とオタクは思ったりしてた。すみません。まあでも彼って、絵画にも描かれているように罰として括り付けられたまま鳥に体を食いちぎられながらも苦しみ続けた哀れな神なんだよね。まあそれになぞらえているのもあながち間違っちゃいないか、と視聴後の今これを書きながらなら思う。
この監督ならではな時間の流れがあるのだけど、序盤から中盤にかけてはおペンさんがいかにして原爆の父となったかというのを描いていて、終盤は、おペンさんがロシアのスパイの容疑をかけられて尋問される公聴会がメインとなってくる。
おペンさんがどういう人物だったのか、栄光を手にした男に群がる人間の恐ろしさだったり、いかにして原爆の父となったのかだけを描写するだけではなく、誰が他国へ機密を漏らしたのか、成り上がりを邪魔する裏切り者は誰か、ミステリー要素をはらみ、それがこの作品の、映画としての面白さを魅せてくれたと思う。
原爆や原爆投下については、本当にちょっとだけ。
長崎で生まれた私から見たこの映画
ここまでは、映画としての評価で、ここからは長崎で生まれ育った人間としての感想になりますので、感情的になっている部分が多いかもしれない。先に謝っておく。
長崎では8/9はサイレンが鳴り、小中高と学校では必ず黙祷を捧げる。そのために登校日があり、平和集会といって、その日まで原爆について調べたりグループで発表をしたり、平和について学ぶ。
長崎を出るまでは、全国でその日は必ずサイレンが鳴り、皆が黙祷してるもんだと思ってた。8/9、11時2分原爆投下時刻も当然の常識だと思って生きてきた。18で地元を出て福岡に来てから、サイレンの鳴らない8/9を初めて過ごした。
小学校くらいまでは被爆した方たちから直接話を聞く、語り部というものがまだ盛んにあった。今となっては、語る側の人数も減り、私たち聞いた世代がそれを下の世代へ伝えていかないといけないと思っている。戦争の悲惨さ、原爆の持つ恐ろしさ、それを語り継いでいく、それが、長崎という土地に生まれた人間として最低限やらなければいけないことなのではないかと思う。
まあ、そんな機会など一切無いけれど。
被爆者から直接聞く話は、物語なんかじゃなく、想像を絶する惨さだ。正直、小学生が聞くにはあまりにも悲惨だ。実際それでも当時の方々はかなりマイルドに話してくれていたと思う。百聞は一見に如かずなので。当然、被爆何世という人たちもいっぱいいるし、まだ70年しか経ってないんだから未だに原爆の影響で苦しんでいる人たちがいることも知っている。
平和学習として平和について学んできたというより、命の重さ、人の惨さについてこれでもかというくらい学ばされてきた、と私は思っている。
その土台があったうえで観るこの映画は、もう本当に胸糞悪かった。胸糞悪いし、恐ろしかった。けれど、ここまで踏み込んでおペンさんの罪の意識を描いてくれたこともまた、ありがたかった。
実験を繰り返し、内部で何度も衝突しながらもなんとか原爆完成に向けて日々奔走するおペンさんがただただ恐ろしかった。今、私は、ただならぬ憎悪が生まれていくその過程を目の当たりにしているのだ、となんとも言い難い嫌悪感があった。
最終実験が成功したシーン。大爆発が無音なのがまた。黒い炎が轟々とあがり、実験で関わった人々が喜ぶ狂喜乱舞する姿。あの、なんとも言えないやるせない気持ちは映画鑑賞していて初めてだったかもしれない。おペンさんが人生を掛けて、いろんな人を巻き込んで集大成を迎えたこの実験が、人の命を沢山救ってくれるものであったなら、こんなに嬉しい映画はないのに、なぜこれが原爆なんだ、とどこにもぶつけようのない怒りがこみ上げた。
実験の成功を喜ぶ国民の姿、研究者の姿に腹が立って、悔しかった。こんなものを作りやがって。という、どうしようもない怒りがただ湧いてきた。やるせない静かな怒りだった。
原爆が投下された日本の惨状については当然だろうが映像などは一切流れない、被害はこうだった、という報告のみ。
原爆投下場所についての議論なんてのもだ、京都は新婚旅行で行ったから、文化的に惜しい町だから標的から外そうってなんだそれ…映画とわかっていながらもね、嫌悪感がヤバイんですよ。日本人の命は、広島と長崎の人間の命はそんなもんなのか、と。悔しくて涙が出ました。この時代、この場にいる人間にとっての広島と長崎の人間の命はこんなものか…と考えずにはいられない。長崎にあの爆弾が落ちてこなければ、長崎の和洋折衷な美しい街並みも、教会群も、歴史も、もっと美しいものがそのまま残り続けてくれていたかもしれない。そう思わずにはいられなかった。
大事なことだから言うけれど、別にこれといってこの作品自体が、日本人を軽視してるとかそういったような作りには一切感じられなかった。
ただ、あの時代、あの場にいる、原爆投下を指揮した人間にとって、日本人の命はそんなもんなのか、と思ったというだけ。
まあでも、おペンさんが戦争を終わらせたと評価されているだけの描写ではなく、ロシアとの冷戦の引き金になったと言われているシーンなどもあり、英雄のままで終わらせない、世界的な兵器を作ってしまったこの男の罪と、それによって苦しむ姿を描いてくれていたのは素直に良かったと思った。なんというか、日本への原爆投下後に、おペンさんが、人が丸焦げになった幻覚とか皮膚が焼けただれる幻覚を観たり幻聴に悩まされてる描写があっただけでも、それを世界の人々が見るだけで、意味のある映画になってるんじゃないかって私は思う。
よくこの題材で作ってくれたなって思う…一歩間違えれば、有名監督とはいえ、いろんな国からバッシングとかあってもおかしくない…そういううの見越しての日本での上映見送りとかあったのかもだけど。相手が日本人だから大してそんな批判受ねえだろって心積もりなのかな(さすがにひねくれすぎですよね)その辺はよくわかってないのであんま言わんとこ。
おペンさん
今作では、おペンさんが繊細で、優しくて、ちょっとお人よし過ぎるみたいに描かれている部分がある。人々に慕われていた結果として、裏でおペンさんを陥れようとしていた人物の思惑通りにいかず。けれども順風満帆で人生を終えられたというわけでもなく、政治に利用されるだけされて、最後まで人に利用された彼の人生だった、みたいなニュアンスにも取れる感じがある。けれども、そこに私は同情はできない。
アインシュタインとの会話が重要なのだが、そこに彼のこれからの罪との向き合い方なども説教されたりしてる。
可哀そうな男、とも、偉業をなしとげたすげえ男、とも私は思えない。思いたくないのだ。
ラストシーンの恐ろしさ
原爆の持つ力の恐ろしさや、人間の執念や恨みの恐ろしさもこの映画では見ることができるんだけど、なんというか、原爆を生んだおペンさんという人間の恐ろしさがさ。終始、女にだらしないところとか、知らないうちに自分が政治に利用されてるところとか、「頭はいいのにバカな男だな~嫁の方がかっこいいわ…」って思いながらずっと観てたんだけど。
アインシュタインとの会話のあと、映画始まってすぐ、冒頭にも流れた、雲の切れ間から上がる煙やミサイル、地球を覆いつくす炎の映像。
自分の原子への憧れ、情熱でたったひとつの核爆弾を作ったこの男は、図らずとも、地球すべてを滅亡されてしまうほどの恐ろしいものを作ってしまったというね。こわいこわい。
原爆が生まれる前の世界と、生まれた後の世界は全く違うものになってしまった。人類が核を保有するという、まさに、初めて人類に火を与えたプロメテウス……
恐ろしいよね、これがあるのと無いのとでは、世界が変わりますよという、そんなものを作ってしまった男…そんな人間そうそう存在しませんから……
noteなどにすごい解像度で物語の解説をされている方も居るので、もし映画観るの気になってる方や、見た後ちょっとよくわかんなかったなって方はそちらを見るのおすすめです。
なんか、映画観て久々に疲れたな。
もともと、戦争映画や実在の事件を元にしたテロ事件映画とかは好んで観ているので大概そういうの観た後は緊張感とかでドッと疲れるんだけど。「ブラックホークダウン」観た以来かも。(笑)
数年前まで、長崎市内に住んでいて、徒歩圏内に原爆資料館も平和公園もあったんだけれど、近いから逆にわざわざ行くこともなくて。けど、大人になってからもう一度足を運ぶことが大事だなと思った。
せっかくだし今度帰省のタイミングで行ってみるか。
おわり