事前情報はあまり入れずに見た
公開当時、Xで見る限りあまりにも評判がよくなかったので、金ローまで待つか…と諦めていたが、アカデミー賞受賞したので見てきた。
事前情報としては
・ジブリ作品のオマージュが沢山ある
・宮崎駿監督の自伝的作品
・著者:吉野源三郎の小説、君たちはどう生きるかをリスペクトして作られた作品
という、ふんわり情報。この小説に関しては2018年に漫画になったときに少し読んだことがあった。でも中身は全然覚えていない。
正直、見終えた感想として話がめちゃくちゃ壮大だなと思った。宮崎監督の自伝的作品とも聞いたが、そりゃそうだろう。私の範疇を越えまくっている。だから公開当時、観た人の感想が、意味が分からんとかやりたい放題やってるって言われてたのか…と妙に納得してしまった。
主人公、眞人の母親が入院している病院が燃えている場面から映画は始まる。
戦争の空襲かと思ったが違った。でも第二次世界大戦中が舞台のようだ。行きかう人々の、暗く、ノイズのような描き方、炎の力強さ、迫力のある画面に上映開始速攻、引き込まれてしまった。言葉遣い、周囲の環境や服装からも眞人が裕福な家庭の子供なんだろうと察しがついた。
序盤から、トトロ、千と千尋のオマージュを見つけ、わ!あのシーンだこれ!と思い出していた。正直、この映画はそれを探すだけでも楽しいんじゃないかと思う。他にも、もののけ姫やハウルなど沢山オマージュしているなと思うシーンを見つけられた。
私も、ジブリで育った。ジブリ飯という言葉があるけど、私はジブリの涙が好き。ぼろぼろ零れ落ちる涙が美しくて大好き。あと、太眉で黒髪の少年が大好きなので、今回の主人公、本当に美しくてめちゃくちゃ大好きになってしまった。(私は幼少期からもののけ姫のアシタカが大好きな女です。ずっと変わっていません)
母親の死
主人公は母親を火事で亡くしてしまうのだけれど、母親の代わりとして父親の再婚相手は母の妹の夏子。とても美しい人だった。父親の仕事の関係などもあるようで、再婚を機に田舎の立派なお屋敷へ移ることになる。
住み慣れた場所を離れ、母親代わりの人と一緒に暮らし、知らない人との生活が始まる。
眞人があまり話すタイプではないので、なんだかか苦しく映ったんだよな。自分の母にそっくりな夏子を新しい母親だと受け入れられない眞人の葛藤が、見ていてつらかった。(それなのに出会い頭早々、お腹に手を当てさせ妊娠を示唆されたり、父親は帰宅後夏子に抱擁とキス…そんな姿、見たくないよな…)
眞人は母親似なんだろうなとなんとなく思った。
悪意
田舎に越してきたおぼっちゃんの眞人は学校でもいじめを受ける。その帰り道、道端で自分の頭を石で殴り、血を流した大けがした状態で帰宅すると、屋敷中大騒ぎ。父親は激怒し「犯人を教えろ!必ず見つけ出してやる!」と言う。
寝込みながら「転んだ」としか言わない眞人。私はハッとした。自分を石で殴る行為が、とても理解できてしまった。
少し自分の話になるが、小学生の時に友達と喧嘩をした。小学校の畑で育てていたプチトマトを巡って。ビニール袋に入れた私が収穫したトマトを全部奪われ取り上げられた。それは私の!と怒った。家に持って帰って、母に渡したかったから。そしたら取っ組み合いの喧嘩になった。その時、拍子で顔を爪で引っ掻かれた。相手は男の子だったから、力で勝てなかった。ほとんど潰れたトマトの入ったビニール袋を持って泣きながら帰路についた。その途中悔しくて、自分の顔を爪で掻きむしって、自分で少しだけ顔に傷をつけて帰った。帰宅すると眞人の父のように、母が飛んできた。男勝りで普段から頻繁に外で遊んで傷を作って帰ってきていたのだけれど、その時ばかりは「女の子の顔に傷をつけられたら、たまったもんじゃない!」と母が激怒していたことを今でも覚えている。私は卑怯なので、○○と喧嘩した。と相手の名前を母に話した。だけど、事が大きくなるのが怖くなり、「自分も相手を殴ったから一方的にやられてない」というようなことを主張した。これはそのあと、おそらく親同士での話し合いもあったようで、その男の子とは仲直りをした。
ちゃんとした謝罪をお互いにしたとかは正直まったく覚えていない。
しかし映画の眞人は「転んだ」としか言わなかった。でも反抗的で、そこにはちゃんと悪意がある。だからこそ、私は大人になった今でも、あの時の自分の行動を覚えている。ずっと、罪悪感があったから。そして心配してほしいという思いもにじんでいる。子供じみた行為だ。あの時の私を思い出した。自分で付けた傷だとは周囲に言わない、だってそこには悪意があったから。この傷についても、映画の後半眞人が自分で付けたと言わなかった部分、それを告白するシーンが、今後の眞人の人生を形成する一部になっていく。
塔、アオサギとの出会い
お屋敷へ着いて早々、庭でアオサギが飛んでいるが、このアオサギと、アオサギが住んでいると思われる塔。このふたつがこの映画の鍵なんだけれども、詳細は書ききれないのでめちゃくちゃ省いて書く。
この塔は、大叔父が所有していたもので「下の世界」と呼ばれる世界に通じている。
死んだ者の世界、そしてこれから産まれてくるものが同居している世界のように感じた。鳥と人間も同居している。そこで炎を操る少女、ヒミと出会う。彼女は幼き日の眞人の母親であることがのちにわかる。
この下の世界の解像度をあげるには何度も映画を観ないとわからないなと感じた。この世界はなんだ?と考えている間に物語が進んでいく。これといってちゃんとした説明はない。けれどこの世界こそ、眞人の大叔父が作り上げたもので、大叔父はその後継者を探していた。その後継者を眞人に任せたいということだったが、眞人はそれを拒否する。
この下の世界を通じての冒険が、まさしく眞人の成長、人生の生き方を模索する旅である。アオサギとヒミと協力しながら、とにかく、その旅がもう宮崎駿ワールド全開って感じだった。
この映画は何度も観る価値がある映画だと思う。というかジブリはいつもそうだ、一見、子供向けファンタジーですの顔をしておきながら、ものすごい大人向けに作られていることなんて今までもそうだった。何度か見てからじゃないと気付けない思いが相当あると思う。この映画は、題名などから何か与えてもらうつもりで観に行くと、あれ、なんか違うなと肩透かしをくらうかもしれない。なんというか、全体的に「僕はこう生きたしこう生きるけど、君たちはどうだ?」みたいなニュアンスを感じた。でも、見終わったあとなんだかすっきりするのだ。
エンドロールで米津玄師の地球儀が流れると、優しくもどこか晴れやかな心持ちになった。最後の眞人の姿、疎開が終わり、家族で東京に戻ることになった眞人は背も伸びていっそう逞しく、美しい青年になっていた。これからもこの青年は優しい心で、いろんな困難があっても乗り越えていけるだろうなと思わせてくれた。
そして何より、80歳を越えた宮崎監督がこんなエネルギッシュに、宮崎駿ワールド全開でまだまだ第一線で活躍していることが恐ろしい。
傷ついて、傷つけながら、それでもどうにか生きていくしかない、自分の嫌な部分と向き合いながらも強く前を向いて生きていく眞人に、勇気をもらえる作品だった。今回私は眞人の視点で重点的にこの映画を観たけれど、大叔父の視点や夏子の視点、ヒミの視点で観たときにもっと多くの発見や気付きがあるだろうと思った。
さあこれからどうしようか。観に行った人の感想が聞きたくなる映画だった。