すばらしき世界 2024/01/17

murinandayone
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映画『すばらしき世界』オフィシャルサイト|大ヒット上映中 (warnerbros.co.jp)

実は2回目の鑑賞

今日はアマプラで2回目を観た。最近、綾野剛の「ヤクザと家族」についてXで何度か触れたが、その映画と同じ時期に、この映画も上映していて、1回目は立て続けに映画館で観た思い出。(どちらも2021年1月だった)

暴力団に入っていた男、三上正夫(役所広司)が殺人で13年の刑期を終えて刑務所から出てきたところから物語が始まるこの映画。

初めて見たとき、感想としては、「罪を犯してしてしまったらきちんと罰せられるべきであるが、それと同じくらいもう一度人生をやり直すための周りの理解と支援が必要なんだなあ…」というものだった。ネタバレしない程度に書くので、ふわっとしたところが終始あるかもしれない。

だけど、今日見返して抱いた感想は、3年前に観たものとは全く違うものになった。

三上正夫という人物

この作品、実在した人物、モデルがいる。気になった方は調べてみてほしいが、人生の半分以上を刑務所で過ごしたこの男、観ていて本当にハラハラする。社会とのズレが半端じゃない。その様子が少し滑稽でもある。出所するときもコミカルな音楽が流れておかしい。けれどこの男はいたって真面目に、本当に正直に生きている。というか、そのようにしか生きられない男なのだとわかる。

この男が過ちを犯すことにも理由があり、原因がある。観ていて、この男の人生を覗かせてもらっている気になる。

役所広司が本当にすごい。役者さんって本当にすごい。…ってありきたりな言葉がつい出てしまうのだが、本当にすごいものはすごい。

頼むから落ち着いて、暴力ではなく言葉で伝えてくれ、とついつい祈りながら観てしまう。周囲の支えもあり、少しずつ世間に溶け込もうとする姿を応援したくなる。またこの男が福岡の方言を話すのも、福岡に住んでいる自分にとってはとても親近感が沸き、自分もこの三上正夫という男を支える人間の一人になった気持ちで映画を観ることができる。

そういう瞬間、私たちもあるよね

作中、道端でおっさんをリンチする半グレが出てきたり、施設で働いてる障害のある子をバカにする同僚とかが出てくる。そういう場面に遭遇したとき、私はきちんとそういう人間に対して「やめろ」って言えるか?相手を見て、言えずに無視したり笑ってその場のノリに合わせたり、無かったことにしたことがある。正直、思い出したくもない。だけど、そういう人間に対して声をあげるのがこの三上正夫という男だ。彼の場合、声だけでなく、死ぬまで手を上げてしまうところが問題であるが。もはや何が正義で何が悪なんだ?となる。黙って見過ごすことが世渡り上手というなら、そのために自分の良心を殺すのか?本当の優しさって何?実直な人間が損する世の中で、普通からはみ出さないように生きる人間は弱いのか?頭の中でそんなことがぐるぐるする。

正義と悪、悪の背景には

今回自分が2回目を観て感じたことの部分は、これだった。先ほど述べたように、この男を支援しようとする人間がいる中で、もちろんこの男の経験を、自分のために利用しようと近付いてくる者もいる。それを演じていたのが、長澤まさみ(TV番組のプロデューサー役)だった。1回目に観たとき、それ故に私には彼女が悪役に見えた。完全に三上正夫を支えたいという気持ちで観てしまっているからだ。だけど今日、観たときに彼女に違う気持ちを抱いた。彼女にも責任のある仕事があり、立場があり、彼女が三上正夫を利用しようとすることにもきちんと背景や理由がある。以前観たときに、私にはそれを想像するということができなかったのだなと思った。

正義の反対もまた正義だと思っているが、彼女にも彼女なりの正義や守るべきものがあるのだろうと思う。昔は正義のヒーローにしか興味がなく、悪役キャラを好きになる気持ちが理解できなかった。だけど自分が大人になってから、そうなるまでの背景があるということを知ってから、相手を批判する目で見るということが少なくなったように思える。

大人になるということは、相手の置かれている状況やそうなるまでの背景を想像できるようになるということなのかもしれないなと思った。

人の優しさ

この作品ではいろんな人間が三上正夫を支えようと奮闘している。その姿があまりにもまっすぐで、本当に涙が出る。そこまでしてくれるんだ、と思う。個人的に、多くのバイプレイヤーが出演しているのも見どころのひとつであると思うが、仲野太賀と北村有起哉が最高だった。北村有起哉は「ヤクザと家族」では組の若頭という役柄だが、今回は役所で生活保護申請などを請け負う支援職員で真逆だったのもまた私に刺さった。本当にこの人の演技が好きだなとこの作品で改めて思った。

暴力で生きてきた人間に寄り添う人間たち。世界は思っていたよりも素晴らしいのかもしれない。だけど、そのようにしか生きられない人間にしたのもまたこのすばらしき世界じゃないか、と思わずにはいられない。

@murinandayone
自分の頭を整理するための映画日記