初めて聴いた時、心に深く薔薇の棘が刺さってしまって、今でも抜けないままでいる。特に好きな十曲について。
1. 聖少女領域
アリプロを初めて聴いたのは「禁じられた遊び」だったと思う。一度聴いたら忘れられないメロディと歌詞に衝撃を受けたが、何かの放送でたまたま耳にしただけでアーティスト名も曲名もわからず、当時はインターネットに不慣れで調べることもできず悶々と過ごしていた。数か月ほど後、アニメ「ローゼンメイデン トロイメント」のOPを観て、探していたアーティストだ!と気づき、すぐさまCDショップで買ったのが「聖少女領域」のシングル。狂ったように聴いた。
何よりメロディが好き。後打ちのパーカッションが心地よいし、幾重にも響く鍵盤やストリングスがゴージャス。間奏やサビ終わりで入っている鐘の音も効いている。大好きなケテルビー「ペルシャの市場より」を引用していることにも感銘を受けた。
「KERA!」「ゴシック&ロリータバイブル」を読み、嶽本野ばらや中村明日美子をこよなく愛していた学生にとって、アリプロの音楽は天啓だった。2022年7月に豊洲PITで行われたライブ「A級ヒットパレード〜30th Anniversary!」で生のお二人を拝み、「聖少女領域」を聴いた時は、ベッドにCDプレーヤーを持ち込んでイヤホンで夜通しこの曲を聴いていた十数年前を思い出し、胸に深く感動が広がって涙があふれた。
2. 愛と誠
アリプロの曲で一番好きな歌詞はこの曲のサビ、「爛漫の四方の春」。見渡すかぎり満開の桜、青空を覆うほどの見事な桜吹雪を思わせる。こんなに美しい一節があるだろうか。
歌詞の美しさはもちろん、クラシックを引用しつつ和風に仕上げる片倉さんのアレンジが素晴らしい。特に、サビの入り四小節は段々と音が下がっていくのにとても広がりを感じて、抑えるところは抑えるメロディがますますこの曲の美しさを際立たせている。
ちなみに、他に好きな歌詞としてすぐに思い浮かんだのは「月蝕グランギニョル」の「頭上には星屑 墜ちるは奈落の底」。この一文に曲の世界観が詰まっていて、アリカ様の詩は素晴らしいなあとつくづく感じる。
3. 桃色天国
アリプロ曲のいわゆる白アリ・黒アリなどの区分では、どちらかというと白アリ・桃アリ派なので、この曲はたまらなくツボに入る。シングル「暗黒天国」のジャケットが可愛くて、しばらくCDを部屋に飾っていた。
ハープやシンバル、グロッケンにピアノ、ウィンドチャイムが響いて天上の音楽を思わせる。少しジャジーさもあってお洒落。甘くて可愛くてロマンチックで壮大でどこか気だるげなこの曲が大好きで、紅茶とケーキとチョコレートを用意して、刺繍やレース編みをしたり海外のアンティーク雑貨の本を読んだりしながら「桃色天国」を聴くのは至福のひと時だった。
4. メガロポリス・アリス
冷たい鐘?トライアングル?の音が響いて、何かが地下で蠢いているような不可思議なイントロから始まる。ウィスパーなAメロが素敵。「地球は1999」と言う歌詞の歌い方が、アリスが兎を追いかけて無重力の穴に落ちていくような面白さがある。Aメロ・Bメロとかなり変則的な伴奏で、聴いていて不思議の国を旅しているようなふわふわとした心地になる。具体的にこの歌詞が好きとかこのメロディがたまらないというよりは、この曲だけが持つ不思議な引力があって、気づくと何度も聴いてしまう。
5. 共月亭で逢いましょう
「この四阿」「晴れわたる」と歌っているのに、何故か郊外にある戸建ての洋風な別荘を思い浮かべながら聴いていた。小さなお庭に自然の草や花々が生えていて、白塗りの壁に少し色褪せた緑の屋根の「共月亭」。そこでひそかに逢瀬を交わす二人の曲だと思っていたら、鹿児島市の公園内にある中華風のあずまやのことだと知って驚いた。音楽も中国っぽいアレンジなのに、全く気づかなかった。共に月を眺める場所。とても素敵な名前だ。ただ、自分が思い描いていた別荘「共月亭」も素敵なので、そのイメージも大事にしており、この曲を聴くときは二倍楽しめていると感じる。晴れわたる夜空を思わせるサビが本当に美しくて、しみじみと胸に広がる名曲。
6. 空宙舞踏会
「月光浴」「水月鏡花」など、優しく情緒的なアリプロ曲が大好き。「空宙舞踏会」はロマンチックな曲調に電子音が多用されていて宇宙を感じさせる。ホルストの「水星」のように可憐な水の動きを感じる音、心臓のペースメーカーが止まるような音、様々な音が星の瞬きのように浮かんでは消える。Aメロでは夢の世界から語りかけてくるようなエコーがかかっていたり、サビでは声が段々と分かれて二重に聴こえるような箇所があったり、とにかく実験的で面白い一曲。音楽も好きだし、歌詞の美しさは言わずもがな。
7. 名なしの森
ゲーム音っぽさのあるイントロがめちゃくちゃ可愛い。イントロを聴くだけで、苺がたっぷり入ったバスケットやふわふわの白いパニエや赤いベロアのリボン、その他可愛いもののイメージが脳内に溢れてくる。全体を通して曲調がとても好きで、ずっとバックで流れている細かなスネアの音がとても良い。また、「エスカルゴ嬉遊曲」や「ストロベリーパイをお食べ」などと同じく、可愛い曲調に騙されることなかれ、実は皮肉と毒が効いた歌詞なのも素敵。「春の甘い黄昏にも…」の部分などとてもロマンチックでお気に入りの一節。歌詞・音楽・世界観・雰囲気・思い入れと総合的な面でいうとベスト3に入るくらい大好き。
8. 春蚕
この曲が「特に好きな十曲」に入ったことに自分でやや驚いたけれど、とても切なくて美しく聴くたびに心がじくじくと騒ぐような曲。天から聞こえてくるような声、空蝉のように響く伴奏、とにかく何もかもが美しくて、気づいたら「春蚕」の世界の中に入り込んでしまう。サビのメロディと歌詞と声の綺麗なこと!陳腐な言葉ではこの曲がどんなに素敵かをとても語り尽くせない。不協和音だからこそ際立つ美しさ。あえて完璧な和音を目指していないあたり、侘び寂びすら感じさせる見事な和の一曲。ラスサビも好き。
9. 戦争と平和(Grand FInale ver.)
既出の人気曲をオーケストラアレンジしたアルバム「Grand Finale」。どのアレンジもとても素敵だけれど、その中でも「戦争と平和」のオーケストラが素晴らしい。トランペットのソロで始まるイントロが、ヨーロッパの朝の雰囲気を思わせる。Bメロのクラリネットや、サビのシロフォンも効いている。元々の「戦争と平和」はマーチっぽさがあったけれど、Grand Finale ver. はその雰囲気を纏いつつ、一層壮大な世界観で曲のテーマを伝えていて圧巻の一言。一度でいいから生オケのアリプロを聴いてみたい。
10. LABYRINTH
初期アリプロの可愛くて乙女らしい一曲。アリプロは心が病んだ時に聴いて落ち着くことが多いけれど、この曲は純粋に元気をもらえる。真っすぐな恋愛ソングという感じでとても良い。こういう曲だとアリカ様の甘く透き通った声がまた一層聴いてきて心地よい。メロディもとにかく明るくポップで、ただアリプロらしい気品や優雅さも感じられて、聴いていて前向きな気持ちになれる。学生の頃、この曲を聴いて励まされることが何度もあったので、思い出の曲としても「特に好きな十曲」に入る。
…他にも好きな曲はたくさんあるけれど、順番に好きな曲を挙げていったら上記の十曲となった。「極色一代女」のブギーな格好よさ、「ALICE同罪イノセント」のアリプロらしさ、「人生美味礼讃」の心地よい気持ち悪さ、「ダリの宝石店」の歌詞の面白さ、「阿修羅姫」のいじらしさ、「勇侠青春謳」の最高のイントロについて等々、また時間を作って語りたい。