「日本海側では津波は発生しない」という根拠のない俗説

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2024年1月1日、石川県の能登半島で、マグニチュード7.6、最大震度7の地震があった。これに伴い、石川県能登には推定高さ5mの大津波警報が発令された(2日に解除)。

この地震に関して、著名人が津波を軽視するような投稿をSNSにしていた。この地震では巨大津波は起こらないだろうから、寒い中避難しないほうがよいのではないかというものだ。たしかに、寒い中に長時間いると、低体温症により命を落とすこともある。しかし、だからといって津波を軽視してはいけない。

実際には、津波による被害はあった。気象庁の観測では、トラブルにより、津波の高さは「数十cm~1.2m以上」としか把握できていない。しかし、以下の報道にあるように、3~4mを超える高さの津波が押し寄せた可能性があることが、専門家の調査や分析でわかってきた

1983年の日本海中部地震では、秋田県で6.6mの津波が記録されている大阪管区気象台は、「日本海側では津波は発生しない」というのは根拠がない俗説だとしている日本海側の津波による被害は、太平洋側に比べると記録や調査が少なく、研究は遅れていたとのことだ

津波は、たとえ20~30cmの高さであっても、水が一気に押し寄せてくるため、健康な成人でさえ流されてしまうことがある。また、津波の高さが1mを越えると、屋外の人のほとんどは死亡すると言われてる。さらに、木造家屋は、浸水高1m程度で半壊、2m程度でほぼ全壊となる

特に、日本海側は太平洋側と比べて地震から津波到達までの時間が短い傾向にある石川県珠洲市や輪島市沿岸には、地震発生から1分ほどで津波が到達していた可能性があるという分析結果を東北大の研究グループが公表している。東北大災害科学国際研究所の今村文彦教授(津波工学)は、余震でも津波が起きる可能性があるとして、「沿岸部で復旧作業に当たる方は避難場所を確認し、大きく長い揺れを感じたらすぐに海から離れてほしい」と注意を呼びかけている

災害時は、俗説に惑わされず、安全第一の行動を心がけたい。なお、冒頭の著名人の投稿には、日本海側でも大きな津波がくる可能性があるとの指摘が過去の津波の記録とともに寄せられていた。しかし、その著名人は応答していない。

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小嶋裕一(こじま・ゆういち)。フリーで調査・執筆・編集をしています。著書『[決定版]原発の教科書』(新曜社/共編著)、ドキュメンタリー『19862011』(監督)、Web作品『あなたは原発の寿命を知っていますか?』(ディレクター)。 連絡はmutevox7@Gメールまで。他のSNSなどは以下のリンクからご覧ください。 linktr.ee/mutevox