何年経ってもゆるせない事が人生で何個かあるが、そのうちの1つは22歳くらいのときに起きた出来事だ。
夕方にバイトを終え、駅から家に向かって街灯も人通りも少ない道を1人で歩いていたら50歳すぎくらいの見知らぬおじさんに「すいません」と声をかけられた。
背丈は私より10cmほど高く細身で、たしかヨレヨレのしなびた服に眼鏡をかけていて高校の教員のような風貌だった。
そのおじさんは手にスマホを握りしめ、私にこう言った。「いつも駅で見てました。友達になりたくて……LINEを教えてくれませんか。」と。
きっとあの時、わたしは目をまん丸にして固まってただろう。言葉を選ばずにいうと気持ち悪く、恐ろしく、嫌悪感でしかなかった。
頭をフル回転させて「お父さんと待ち合わせてるので」と明らかな嘘をつき駆け足でその場を離れた。
二回りも上の見ず知らずの人がハタチそこそこの自分に下心を持って声をかけてきたこと、「いつも駅で見てました」という発言は私の自宅やバイト先を把握されていると感じ、恐ろしかった。しばらくは駅から家に帰るのも怖くなってしまった。
ただ「何年経ってもゆるせないこと」はこの出来事の後に起きた。この件を当時知り合いだった35歳くらいの女性に伝えると、その女性はこう返してきた。
「それはね、むっちゃん(私)が可愛いから仕方ないね。おじさんも勇気を出して話しかけたんだよ!」と。おじさん側の肩を持つような言葉を返されるとは全くの想定外だった。
大人がかけてくれる言葉はそこそこ正しいと10代半ば位までは思っていたけど、やっぱり正しいとは限らない。(そして、私がここに書いてる言葉も正しいとは限らない。)