ずっと、人生のあらゆることに意味を見出そうとしてきた。何の意味もないのだとしたら、とても耐えられない人生だったから。
小児期逆境を経てきたからこそ分かることがあると思いたかったし、家庭に介入できる力を得て自分と同じ思いをしている人を救うのが、その道を選べる立場にかろうじて立たされた自分に与えられた使命だと思って生きてきた。進学も就職も、恋愛ですらそれ以外に選択肢は浮かばなかった。就職試験に落ちても他の道を考えられず、キャリアにできたであろう時間を2年もアルバイトで浪費した。自分と似たような経験をしてきた人にしか興味を待てずにパートナーに据え、自分が救うんだと息巻いて、まんまと共依存に陥り互いにボロボロに成り果てた。
生き抜くことに労力を吸い取られて無気力な日々の中で、その道を目指すことにだけは全力で取り組むことができた。終わりの見えない苦痛に満ち満ちた人生に見出せた、唯一の意味だったから。
この苦痛に意味がないのだとしたら、本当に生きていられないと思った。それに耐えてまでしがみつくだけの価値のある生だとは到底思えなかった。だから生を続けるためにはどうしても、与えられた苦痛に、人生に、意味付ける必要があった。
もっと、意味のない人生を送りたかった。
生活費のために一番時給の良い居酒屋か塾講師のシフトを最大限入れるのではなく、ただやってみたいバイトをやりたいと思える時間だけやってみたかった。
親がやっていた部活ではなく、親がなりたくてなれなかった職業を目指すのではなく、使命感に駆られてではなく、単に興味のあることをやってみたかった。
強く生を望んでくれる他者がいなければ生きていられないのではなく、もっと何となく付き合ったり別れたりしてみたかった。
強い意味はなくても、何となくで、好きなことをやっていい。そんな人生を、願わくばもっと早く手に入れたかった。今みたいに色んなことに興味が湧いて、気力に満ち溢れていて、やってみればできるかも！と無根拠に漠然と自分を信じることができて。ただ死なずにいることだけに擦り潰されずに10代を過ごせていたら、どんな自分になっていただろう、と想像してしまう。人生にifはない。そう思うしかないと分かってはいても、失われたものの大きさに思いを馳せて涙する日はまだある。
しなくていい苦労はこの世に確実にある。弱者の気持ちなんか分からなくていいから、辛い目に遭いたくなかった。子供らしく過ごせる子供時代を送りたかった。世界の下半分なんか見えなくてよかった。「あの経験があるから今の自分がある」などとは死んでも思いたくない。それでは、これまで苦しんできた自分が報われない。こんな、毎日死にたくてたまらなくて苦しくてのたうち回って傷だらけの自分になど、望んでなりたい人間はいないだろう。そんなことを言うやつがいるなら、人生を取り替えてほしい。
様々な足掻きを経て、ようやく安寧といえる生活を手にできた今、少しずつ"意味のないこと"を試みている。今までの人生と全く脈絡のない生き方に、手を伸ばそうとしている。
辛い日々に寄り添ってくれる歌詞の曲にしか興味を持てなかったけれど、ただ耳に心地好いだけの曲を流してもいい。
使命感からではなく、単純に好きなことで興味のある仕事は今からでも、非正規掛け持ちで副業的にでも始めてみてもいい。
極めるつもりはないけど興味のあることを、今からでも習い事として始めてみたっていい。
生まれてきてよかったと思ったことは一度もなくて、生まれてこなければよかったと思ったことは無数にある。
それでも最近は少しずつ、今の生活を手放すのは惜しい、だとか、まだやりたいことがある、だとか、そんな感覚を覚える瞬間が生じてきている。もう少しだけ、この人生を続けてやってみてもいいかもしれないと思いたいが、今はまだそれでは過去の自分が報われない。近いうちに、素直にそう思えるようになりたいと願っている。