20代前半の頃、わたしは「自立したい」と強く思っていた。当時の上司に「なぜ自立にこだわっているのか」と聞かれた記憶があるが、その時は上手く答えられなかった。
それから約10年経った今、おおよそ自立することができている。自分と家族を養えるくらいの収入は得られるようになったし、ひとり暮らしも経験したし、家も買ったし、1人で趣味を楽しんだり旅行に行ったりすることもできる。
そして、「自立に強くこだわって良かった」と心底感じている。経済的・精神的に自立できたからこそ、自分に意に沿わなければ状況を変えることができる。具体的にいうと、自立しているから離婚と再婚ができたし、自立しているから転職もできたと思う。
経済的に自立していなかったら、離婚は絶対にしていなかっただろう。そしてお相手の職業などを判断軸にしてしまって再婚もできなかったと思う。わざわざ規模の小さい会社に転職することもなかった。
精神的に自立していなかったら、離婚をずっとネガティブに引きずっていただろうし、再婚したとしても生活リズムやキャリアが違う夫を信じることができなかっただろうし、自分で家を買おうという気にはならなかっただろう。
でも自立をしていたから、自分の意思で選んで行動できた。
では、自立とはどのような状態を指すのだろう?自分の人生に責任を持ち、自分の人生の舵を自分で操作すること。どのような結果になっても他人のせいにせず、不本意な状態になったら自分で変えたり改めたりすること。そして何より、「自分なら大丈夫」と信じ、他人と比べないことだと思う。
前作と同様、自立や正義について考えざるを得ない素晴らしい作品だった。世間の「正しさ」と登場人物自身の「正しさ」は必ずしも一致しない。世間的な見方をすれば「フラフラとしていてどうしようもない」ようにもみえる登場人物たちは、全員しっかり自立し前を向いていて、読んでいて気持ちが良い。
◾️引用
「同じ人間がひとりとしていないように、彼女の苦しさや喜びは彼女だけのものだ。誰かと比較して上下を決められるものではなく、それぞれが、それぞれに『わたしは苦しい』『わたしは嬉しい』と感じる権利がある。一般的に『喜び』や『苦しみ』とされているものは大雑把な目安というもので、無理になぞらえる必要はない。」
「昔から女性に求められるものと、現代の女性として求められるものとのギャップをどう埋めるか。それがあまりに個人の裁量任せになっていること」
「物語は不思議だ。内容は同じなのに、自分の気分や状況によって胸に残る場面や台詞が変わる。以前に読んだときはあまり好きではなかった人物をなぜか好きになったり、苦手なままだけれど気持ちを理解できたりする。」
「良い親の条件のひとつは、少なくとも自立したひとりの人間であることと言い切れる。親に限らず、人との関わり合い全般に言える。精神的にも経済的にもひとりで立てるからこそ、大事な人が転びそうなときに支えることができるのだ。」
「彼らが恐れているのは、それらがいつか自分の身に降りかかるかもしれないという危機感だ。そんな不道徳がまかり通る社会であってはいけないという自己防衛の一種が、他者への攻撃や無理解に転じるのだろう。」
「けっして自分の人生の手綱を手放さないこと、世間の正しさに背いても自分を 貫かなくちゃいけないときがあること。」