「わたしに会いたい」西加奈子

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妊娠初期、「自分の体が自分のものではない」という感覚に苦しんだ。今までしてきた運動はできなくなり、あれをやるなこれをやるなと言われ、他人から「数ヶ月後が楽しみだね」と言われる。わたしの体は子どもを待ち望む家族や、お腹の中の子どものものになってしまったんだ、と思った。

思えば、これが初めてではないかもしれない。妊活をしていた時、「こんなに運動しても妊娠したら体型が変わってしまう」と悲しくなったし、足の細い女性の後ろ姿を見るだけで「あの子かわいい」と湧き立つ友人たちを見て自分と比べてしまったり。胸の大きさ・四肢の細さ・顔の造形…他の女性と比べられる度に違和感があったのは、自分の体が自分のものではない感覚のせいだったのかもしれない。

でも実際は、自分の体は自分のものだ。紛れもない事実なのに、意識していないと自分の体は社会の中に埋もれて、他人のものになっていく。

わたしが最近自分の体を取り戻せたのは、運動を再開できたから。以前のような激しい運動はできないけれど、体の部位を一つ一つ丁寧に見つめ、意識を向けて動かすことで、自分の体を自分の中に取り戻すことができた。

きっとこれからも自分の体が他人のものになってしまうことがあるだろう。そんな時にこそ意識的に自分の体を丁寧に見つめ、コントロールする習慣をつけていきたい。

◾️引用

「いつだって「あなた」の体は試されていた。「あなた」の体は、時に「あなた」を脅かすものになり、同時に「あなた」に脅かされるものだった。そして時に「あなた」を傷つけ、同時に「あなた」に傷つけられるものだった」