NAISTの2024年秋学期入学者選抜試験(第1回・情報科学領域・博士前期課程)を受験し合格しました。
受験にあたり、色々な方の受験記・小論文を参考にさせていただきました。次に続く方へ少しでも何か繋げられたらと思い、私も記録を残します。特に、私はレアケース(高卒・社会人)のため、似たバックグラウンドの方の一助となれば幸いです。
参考にさせていただいたNAISTの受験記・小論文は下記のリポジトリから探しました。過去のものから最近のものまで収集されていて非常に役立ちました。ありがとうございました。
目次
私について
出願資格審査
受験勉強
英語
数学
小論文
入試当日
数学
面接
結果
振り返って
謝辞
私について
高卒(大学中退)
芸大に1年だけ通い、1年休学してから退学
30代後半
フリーランスWebプログラマー
2013年〜
2023年10月〜 副業で正社員
TOEIC 780点
出願資格審査
大卒ではない私の場合、事前に出願資格審査を受ける必要がありました。NAISTでは出願資格(10)に該当します。
(10)本学において、個別の資格審査により、大学を卒業した者と同等以上の学力があると認めた者で、2024年 3月 31日までに 22歳に達する者
(2024年入学学生募集要項より引用)
この文章からわかることは高卒や中卒でも受験資格が得られる可能性がある、ということでした。もし大卒ではないことで大学院を諦めてらっしゃる方がいらしたら今一度、学生募集要項を確認してみてほしいです。
さて、ではどうやって「大学を卒業した者と同等以上の学力がある」と認められるのかですが、審査が行われる以上、論理的に証拠をもって示すことで客観的に判断できることが重要なのではないかと推測しました。
私の場合は3点主張し、関連する書類を提出しました。
実務経験が10年以上あること
個人事業主を10年継続していること
TOEICで780点取得していること
具体的には仕事に関する部分は大学で経験できる内容と関連させて、TOEICについてはETSが発行している統計情報からそれぞれ大卒同等以上の学力があると主張を行いました。
もしIT関連の方で基本情報技術者資格やAWSの認定資格等をお持ちであればそういった資格をもって主張するのも1つの方法ではないかなと思います。
受験勉強
2024年秋学期の入試日が2024年3月6日(水)、私が受験を決めたのは2023年5月中旬、受験勉強を開始したのは2023年6月でした。入試までの期間としては約9ヶ月間受験勉強に充てることができました。1日の勉強時間は大体2時間程度で、一番時間を充てたのは数学でした。
時系列
2023年4月 オンライン学生募集説明会へ参加
2023年5月 オープンキャンパスへ参加し、NAIST受験を決意
オープンキャンパスへ現地参加
希望する研究室を訪問し、研究したい内容が研究室で研究できる内容かどうか相談
出願資格審査の申請書を請求
出願資格審査に必要な書類を準備
受験勉強準備(数学出題範囲に指定されている書籍を購入等)
2023年6月〜12月 受験勉強
出願資格審査申請(締切のみ記載があったため、6月に早々に提出)
数学
8月に夏休みを取り、数学に週1日追加で時間を充てる
12月末までに指定範囲の通読完了
英語
6月にTOEIC受験(3月にも受験済み)
6月より3月のスコアの方が高く、NAISTの合格者平均点は超えていたため終了。結果的に英語は特に何も行わず。
小論文
研究テーマに関する論文を時々検索し、ふんわりと方向性を決める
2024年1月 出願資格審査の結果が通知される
出願書類準備
小論文に着手
集中するため数学は一旦お休み
2024年2月 出願
数学を再開、練習問題に着手
2024年3月 入試
入試1週間前まで数学の練習問題に取り組む(全ては解けず)
入試1週間前〜前日まで小論文の内容を復習し、使用した論文の読み直し・精読
英語
NAIST受験より前から英語はずっと勉強を続けており、2023年3月に受験したTOEICのスコアが780点、6月のスコアが775点でした。
Q. TOEICはどれくらい取れればいいのでしょうか?
A. 合計点で評価しますので必要最低点などはありませんが、2022年度入試では日本語受験の合格者平均が718点ほど、英語受験の合格者平均が906点ほどです。
(https://isw3.naist.jp/Admission/nyushiQ_A-ja.html 入試に関するQ&Aより引用)
上記にある通り2022年度入試での日本語受験の合格者平均が大体720点ぐらいで、年々上昇していたとしても780点あれば平均点はあるだろうと判断し、NAIST受験を決めた時点でそれまで行っていた英語の勉強は一旦やめました。
そのためTOEIC対策として私がやっておいてよかったと言えることはTOEICのリスニングやリーディングの形式に慣れておいたことぐらいでしょうか。
あとは単語(スペルのみではなく音でもわかること)と文法に集約されると個人的には思っています。
数学
勉強開始時の数学力は、ベクトル・虚数i・微分積分・三角関数あたりの「名称」を覚えている程度で、中身については綺麗サッパリ忘れていました。√の計算方法も忘れており、指数の計算方法にいたっては習った記憶自体がなく、行列も未履修でした。
2024年秋学期の数学の出題範囲と実際の試験方法は下記の通りです。
[数学出題範囲]
代数: 下記の Chapter 1 から Chapter 7 まで。
Gilbert Strang, Introduction to Linear Algebra, Fourth Edition, Wellesley-Cambridge Press
日本語訳: G.ストラング,線形代数イントロダクション,原書第4版,近代科学社
(なお、英語原書の Fifth Editionでは、Chapter 1から Chapter 8まで。 )
解析: 下記の Chapter 1 から Chapter 15 まで。
Serge Lang, A First Course in Calculus, Springer
日本語訳: S.ラング,解析入門,岩波書店
(2024年入学学生募集要項より引用)
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Q. オンライン入試における数学の面接はどのように行われるのでしょうか?
A. 数学の面接時に表示される問題(代数、解析各1問)を解答していただきます。時間は約12分間です。(なお、従来の面接では、面接に先立って問題を下見する時間がありましたが、オンライン入試では下見はありません。また、問題の選択はできません。) オンラインでの数学の面接に関するガイドライン(事前準備、当日の対応)を用意しましたので、こちらの動画(mp4形式)をご確認ください。
(https://isw3.naist.jp/Admission/nyushiQ_A-ja.html 入試に関するQ&Aより引用)
2冊の出題範囲のChapterを合計すると22 Chapterあります。試験まで9ヶ月ですので、単純計算で2〜3 chapter/月 進めないと間に合いません。また、試験の配点としては200点中30点しかなく試験時間も12分間と6分程/問で解いて説明する必要があります。
上記を踏まえ、数学の勉強を始めるにあたり方針を決めて取り組みました。
出題範囲に指定されている書籍のみ、出題範囲のみ進める
とにかく通読することを目標に読み進める
途中の不明点は付箋でメモする
練習問題は通読後に解く
基礎を重視する、応用は後回し
どうしても理解できない部分について補助的に他の参考書も読む
付箋でメモした不明点は専門家に相談する
すうがくぶんかさんの個別指導1時間を2週間に1回お願いしました
結果として、12月末までには通読し終え、1ヶ月間は練習問題に取り組むことができました。不明点は基本的に個別指導で解消していましたが、あまりに不明点が多かったのでいくつかはツールを使って進めました。
ChatGPT(GPT-4)
教科書の文章の意味がわからない時に文章を平易にしてもらったり、定理の意味をわかりやすく説明してもらったり
計算はちょっと難ありだったので式変形方法や解法手順を聞く程度にとどめた
様々な計算を過程付きで表示してくれる計算サイト
微分積分の途中式が知りたい時に重宝した
一部有料のため式変形が複雑な場合は無料の範囲では見れない場合がある
また補助の参考書を購入し、数学そのものの概要や前提知識的なところは適宜必要に応じて補いました。
数学の世界地図(古賀 真輝)
本質から理解する数学的手法(荒木 修, 齋藤 智彦)
高校数学の基礎が150分でわかる本(米田 優峻)
小論文
そもそも小論文を書いたことがなかったため、小論文とは何か、というところから過去の合格者の方が公開されてらっしゃった小論文を拝見して小論文そのもののイメージを掴むところから始めました。
小論文の課題内容については下記の通りです。
下記の課題について、A4版用紙2枚に記述してください(様式任意。PDF形式でご提出ください。 )。
「これまでの修学内容(卒業研究等)について」
「奈良先端大において取り組みたい研究分野・テーマについて」
※必ず 2 つの課題について記述してください。それぞれの課題の記載分量については、出願者の裁量とします。ただし、両課題併せて2枚にまとめてください(1枚は不可。)。
(2024年入学学生募集要項より引用)
フォーマットはNAIST 受験生応援サイトの募集要項にある小論文テンプレートを使用し、TeX等の組版システムは使わずPC(Mac)にプリインストールされているPagesで執筆しました。
参考にした論文はテーマ調査→決定したテーマについての基礎研究→先行研究という目的の順番で検索・選定し、結果的に17本、そのうち実際に参考文献として利用したのは7本でした。なお、17本すべてに目を通したわけではなく、Abstractを読んで論文を書くのに使えそうか判断していたので最初から最後まで読んだのは7本ぐらいです。
論文探しはChatGPTとClaudeを利用して検索・概要抽出を行い、テーマに沿うものを選定してから実際に提案された論文を探して読みました。論文検索として利用したのはGoogle ScholarとPubMed、nature neuroscienceです。(私の研究テーマがエピソード記憶関連のため後半は脳神経科学系のものになってます)
英語論文についてはDeepLを使ってPDFを丸ごと翻訳し日本語で目を通しました。そこから参考文献に使用するものについては原文でも読み、翻訳に誤りがないかを確認していました。AIツールも同じことが言えますが、翻訳ツールの出力結果が必ず正しいわけではないことに注意する必要があります。
A4用紙2枚、という制限は参考文献を記載すると想像していたより書ける量がありませんでした。文章を増やすことより削るほうが作業は容易く、主旨に沿う内容へ自ずと洗練させる必要がでてくるため、枚数は気にせずどんどん書いて削っていく編集方法を取りました。構成も最初からガッチリ決めていたわけではなく、推敲を重ねていくうちに下記の構成へと落ち着きました。
はじめに
これまでの修学内容(社会人経験)
取り組みたい内容
背景・目的
先行研究
提案手法
検討事項
おわりに
参考文献
小論文を書くにあたり、参考にさせていただいた先輩方の小論文を記載します。道標となり、とても助かりました。ありがとうございました。
もし、私の提出した小論文に興味のある方がいらっしゃればご連絡ください。
入試当日
オンライン入試で服装規定もないため、いつも通りの部屋着で受けました。受付があるため20分前には入室し、本人確認等を行った後は開始時間までぼーっとしてました。
数学
出題範囲通り、線形代数から1問(小問2問)、解析から1問出題されました。
基礎がしっかりできていれば解ける問題でしたが、笑ってしまうぐらい全然わからなかったので、「落ち着いて」「えーと、どういうこと?」「う〜ん」とかブツブツ独り言を言っていたら(噂通り)助け舟をたくさん出してくださり、「なんかおかしい」と呟けば「みせて」と仰っていただき、最終的には線形代数は完答(と言ってよいのかわかりませんが)、解析は途中で時間切れとなりました。
さすがに、終了時は色々申し訳なさすぎて深々とお礼をお伝えしました・・。
面接
覚えている範囲でですが質問された内容は次のようなものでした。
NAISTで取り組みたいテーマについて2〜3分で説明してください
先行研究で取り上げている研究手法についてどういうものか教えてください
実験条件について理由を考えたことはありますか。またそれを実現させる方法を何か考えていますか
提案手法に新規性はありますか
統計の勉強はされていますか
希望する研究テーマは2つの異なる内容を含んでいますが、どちらを優先させたいですか
小論文を書く上でどれも考えていた内容だった(実際にその研究をするとなるとぶち当たる問題だった)ので詰まることなく答えられましたが、ざっくりとしか答えられない内容については正直に「もしかしたら違うかもしれませんが」と前置きしつつ答えました。
一番最後の質問は完全に新しい視点だったので、一度答えつつもその場で「いや、ちょっと考えさせてください」と伝えて返答を変えたりもしました。
そうこうしているうちに時間となり終了したため、沈黙することなく最後までコミュニケーションが取れていたのは良かったのではないかなと思います。
結果
142点/200点で合格しました。開示された入試成績情報によると合格最低点でしたので本当にギリギリでの合格でした。多少の変動はあると思いますが、合格最低点も年々上昇傾向にあると考えたほうがよいかもしれません。
自己採点的には、数学がどう考えても良くて半分だと思うため、書類審査と面接の点数が良かったのかなと推測します。
振り返って
今回、いつ受けたか、という運の割合も大きかったのではないかと思いました。おそらく、第2回、第3回と回を重ねると合格最低点は上がっていくはずですので私の点数だと厳しいことは明らかです。
特に書類審査の点数がどうなるのか全く想像がつかなかったため、得点割合が低い数学に一番時間を割いて勉強したのはそれでも取れる点数は取っておかないといけない、という判断からでした。
そういった部分も含め、いつ受けるか、配点に対してどう対策していくか、取れる策は全て講じました。
結果の点数はご覧の通りで、もしどこか少しでも手を抜いていたり、試験回を別にしていたら落ちていたかもしれません。
ことわざで「人事を尽くして天命を待つ」というものがありますが、今回の受験はまさにそれで身をもって言葉の意味を実感しました。幸い、良い結果が得られましたが、もし落ちていたとしても悔いなく結果を受け入れられたと思います。
謝辞
大学院への挑戦にあたり、所属企業の理解と協力が不可欠でした。突然の依頼に快く対応くださり、さらに激励のお言葉までいただき大変ありがたかったです。誠にありがとうございました。