私はけっこう特殊なシステムを渡り歩いているので、普遍的な評価など当然できない。以下はピアノトリオとピアノソロしか聴かない偏食家が、自分のシステムでこれまでのヘッドホンと比較した個人の感想である。また主な比較対象のEmpyreanは、YATONO-HP Ultimateでドーピングしている。
まず情報量や定位の収束などでこれまでもどかしかった部分がきれいに解消された。これについては自分の不満がないものねだりではなくてほっとした。鳴ってるんだけどどこで鳴ってるのか分からない音というのがなくなり、ほとんどの音像が視えるようになった。
ピアノの中低音は金属ドライバーとは思えないくらいふくよかだ。金属ドライバーに対する私の警戒心は何だったのかと思うほど。トロットロの滑らかさを表現できる。それでいて、これまでのヘッドホンでは表現できなかった硬さを両立できている。硬くても刺々しくはないので、柔らかい音が好きな私でも満足度が下がらない。
Empyreanでのピアノの肥大化した音像はスリムになった。しかし肥大化し過ぎていたのが適正化されただけなので全く不足感はないし、ドラマやベースなどはあまり変わらないので、スケールが小さくなることもなかった。昔ヘッドホン祭でオジスペとT1の組み合わせを聞いたときにスケールが小さすぎて全然いいと思えなかったが、Utopia SGは幸いそんな感じはない。
よく言われる音の近さについて。おそらくスピーカーだとユニットの間で鳴っているであろうオンマイクの音は確かに近い。ここに限ってはEmpyreanなどと比べても頭内定位に近いかもしれない。だが、奥で鳴るべき音はちゃんと前方に定位するし、近い音も定位はしっかりしていて後方定位などしないし、奥行きや立体感は十分。横の広がりもそんなにないが、そもそも横の広がりがそんなに必要だと思っていない私にとってはそこまで窮屈には感じない。
ただ、奥行きの情報はあるのだが開放感は乏しく、前方1mで音が鳴っているという情報が脳内定位しているというか、なにを言っているのか自分でも分からないが、そういう不思議な感覚がある。おそらくスピーカーでの聴き方に慣れている人や非オーオタがいきなりこれを聴いても脳内定位にしか感じないのではないかという気がする。そういう人が”おっ”と思うのは静電型などのもっと開放感があって見通しがいいヘッドホンなのではなかろうか。個人的にはHD800のようにシャカシャカさせて開放感を出してないのは好感が持てる。上流を強化したりバランス接続したりすれば印象も変わるかもしれない。
響きは多め。だが自分のシステムは常々響きが間引かれていると思っていたので過多とは思わない。もっと上流の情報量を上げて響きを多くしてもいいくらいだ。Empyreanのようなミストシャワーではないが、直線的に響きがスーッと抜けていく。鳴らし始めは寂しい感じだったが、数十時間鳴らし込むとしっかりシンバルが響くようになった。
低音はやはり少々不足感がある。これも数十時間鳴らしてだいぶ最初よりだいぶ増えたが、アンプがTHA2なのもあり音源によってはウッドベースの存在感は弱い。質はすこぶるよいので、もっと量感が出たら気持ちいいだろうと想像できる。