THA2を導入してからヘッドホンをとっかえひっかえしていたが、10万円台~20万円台のミドルクラスばかりで、ハイエンドには手を出していなかった。元々性能を追い求めていたわけではないし、当時は周波数特性やピアノの響きの豊かさ、圧迫感の解消などで手一杯で、ハイエンドヘッドホンでしかなしえない性能の部分に意識が行ってなかった。Empyreanで初めて40万クラスに手を出したわけだが、これはLCD-3の、高域と低域が伸びず1kHzが刺さることへの不満を解消しようとした結果だ。この目的は達成された。
その基本性能と暖かみのある音を両立した音は高く評価されている。発売から時間が経つにつれて解像度などの基本性能への不満の声が大きくなりEliteやEmpyrenⅡに見られるような基本性能重視の後継機が出ることとなったものの、依然として一定のファンを獲得しているようだ。
LCD-3と比較した最初の印象はシンバルの響きがミストのようにふわりと広がることだ。高域はそれなりの存在感を持ちつつも痛さがまったくない。低域はLCD-3はもちろんHD650よりもしっかり出ている。THA2が高域寄りのため低音が多いと感じることはないが、ヘッドホンの中でも割と出ている方だ。万策堂氏のブログで紹介されたときその特徴に惹かれながらも低音の存在感が弱いというインプレを見て私の趣向と合わないと思っていた。今見返すと低音が弱いとの評はアルカンターラパッドで聴いたことによるもののようだ。レザーパッドではかなり低音が出るとのレビューが多く見られるし、私自身レザーパッドで試聴してしっかり低音が出ていたため購入を前向きに検討できた。また、低音は出るだけでなくウッドベースの乾いた質感がよく出る。LCD-3はすべてしっとりした質感で塗り潰すようなところがあった。
中域はLCD-3が濃厚焼きプリンだとすると、こちらはフルボディの赤ワインだ。プリンより空気感や軽やかさがありつつも、十分に濃厚さが感じられる。
私はHD800を筆頭としてヘッドホンを買うときに音場の広さの評価を結構気にして、広い、または深いと言われる機種を選んできたつもりだ。自分のヘッドホンの所有歴を客観的に見ると必ずしもそうでもないような気もするが、まあ気のせいだろう。その経験でいうと、個人的に広いと言われるHD800はあまり広いとは思わないし、左右の音がセパレートされていることによる違和感は他のヘッドホンと同様だった。私のヘッドホンへの最大の不満は長らくこの左右の音が分離されていることによる違和感であったのだが、Empyreanではこれまでで最もこの違和感が小さい。響きの多さによるものだろうか。これは音場の広さや立体的な空間表現などといった巷の評価とは別の要素のようで、たまたま自分に合う機種を引き当てたようだ。