まず、すごくよかった。見てない人には強くおすすめしたい。
お恥ずかしながら映画におけるインディーズというくくりを初めて知った。『カメラを止めるな!』もじつは観ていないエセ映画好きなもので…。
正直、最初は全く興味が無かった。『RRR』をきっかけに、インド映画であれば知らぬ俳優でも観るが(そもそも外人の俳優なんて正直ほぼ知らない。『RRR』に出ていた俳優たちには興味を持って情報を追っているけれども、監督だってラージャマウリ監督しか知らない。くらいの感じである。)、邦画では、で言うと、知っている俳優も出ていないし、好きなアーティストが主題歌をやっているわけでもない…となると、わざわざ2000円を支払い、わざわざ休日に出かけてまでは観ない、というのが本音だ。ではどうして『侍タイムスリッパー』を観るに至ったかというと、『RRR』をきっかけにフォローした映画好きの方々が推していたからである。それはもう、狂ったように。そして公開からなんと2ヶ月経ってなお上映しているという。(のちに調べて知りましたが、インディーズ映画ということもあり最初は単館上映だったんですね!さらにすごい)こんなに人々を狂わせている映画は『RRR』ぶりではないか?と思ったので、『ラストマイル』のおかわり鑑賞と『侍タイムスリッパー』初見鑑賞を天秤にかけ、『侍タイムスリッパー』を観るに至ったのである。鑑賞後にさらに実感することになるのだが、やはりファンの熱量はすごい!フォロワー1桁の人間のハッシュタグつき感想ツイートが1日で100いいねに届きそう…みんな初見の感想に飢えている…のか!?
これだけの、リピーターになる、宣伝もしてくれる根強いファンの多さが、映画の出来の良さを物語っている。
これ以降はネタバレを含む取り留めのない感想です。
T・ジョイ PRINCE 品川 の 7番シアター。そんなに大きくはないが、8,9割ほどは席が埋まっていたのではなかろうか。これにまず驚く。公開から2ヶ月…しかもそこまで知名度のある役者がいない、なのにこの盛況ぶり!さぞすごい映画に違いない。と思いながら上映開始を待つ。
いざ始まってみると、なんというか画面の荒さ…古い映像をテレビで流しているときのようなジャミジャミ感が若干気になったことを覚えている。インディーズ映画ならでは?のことなのかな。ただ、これはすぐに忘れることになる。物語りへと誘う冒頭の活劇。ゲリラ豪雨を彷彿とさせる土砂降りの雨と雷鳴。そして!コミカルさと不穏さを残したタイトルバック!この時点でけっこう痺れる。タイトルバックすごく良かった。タイトルバックがいいとアガるよね。
そこからの展開は、コミカルかつ切なさが織り交ざっており…いや、すごいんですよね、ここの塩梅が。予告動画でも見られるが、真剣と知らないとはいえ真剣を台本ではたき倒す監督とかはほんとにヤバい(コミカルの方)、自分が守ろうとしていた幕府はとうに亡びており絶望…切腹を試みる場面もヤバい(切ない方)。おにぎりのシーンなんかは両方で、泣いたらいいのか笑ったらいいのか…「食べるんかい」で盛大に笑うことができたが、おにぎりとショートケーキを高坂に与えたのは大変罪深い。日本がいい国になったと泣く一方で、守りきれなかったものは確かに存在するが、コミカルさのなかに、高坂が段々と現代を受け入れていくのがわかる。…かと思いきや、の後半の展開には驚かされたというかよく考えたらよくある展開ではある気もするんだけど、風見恭一郎の登場には思わず口があいた。しかも30年も先に!いたのかよ!そして彼も、侍のときの志や払拭できぬトラウマを抱えていた。そりゃあ…そうだよね…現代では人殺さないし殺せないし、さらに過去にそこに罪悪感を持っていたら、人を斬って斬って斬りまくるなんて辛すぎる…っていうのをどうにかできるの、確かに同じ時代を生きていた高坂だけですよね。釣りのシーンめっちゃ良かったなぁ…最後に川に投げられてたやつなに? そしてそのつらさはやはり高坂にもあり、中打ち上げで脚本の変更を読み、手を合わせる場面以降はもう涙なしでは見れなかった。少年らにね〜絡まれる場面もまた…デッキブラシであの殺気。彼があそこで人を傷つけなくて本当によかった。少年たちはのちに映画を観てビビって更生してください。マジで。そんな中での西経寺住職夫妻との食卓は、高坂の気持ちを思うとおちおち安心しながらみてもいられないのだが、なぞに少しのほっこりをもたらしてくれるのがこの夫妻のいいところである。本当に。真剣での斬り合いのシーンはもうほんと息をするのもままならないほどの緊張感…コメディ映画(?)なの忘れちゃいました。現実への戻って来させ方もうますぎる。「今がその時ではない」の一言で笑顔になれて、観客であるわたしは心から安心したものだ。そして最後はこれまたよく考えたらよくある展開って感じではあるんだけど、いいよね。番外編、ぜひ待ってます。
ところで、高坂は周りのよくしてくれている人たちに、自分が本物の侍であり、幕末から来たとは一切明かさないのだけれど、これがすごくリアルだと思う。「わけがわからないことがおきている」が、幕末に「タイムスリップ」という言葉はないし、おそらく説明のしようがない。高坂はわざわざ嘘をついていたり隠していたわけではないし、周りが勝手に勘違いをして勝手に辻褄を合わせていただけだ。このへんの、「侍」というものの表現がすごい。殺陣のシーンや稽古のシーンもすごい。殺陣では「上段!」で切先を後ろには倒さない。後ろの俳優を切る可能性があるから。実際の侍はそんなことは気にしない。戦場だからね。これが後々効いてくるなんてこの時は思ってもないし、稽古シーンで師匠をテンポ良く斬りまくるところでわたしはいちばん笑った。そりゃ切るよね。侍だし。歴史に詳しい人が見たら違和感を覚えたりはするのかもしれないが、少なくともわたしにとっては充分すぎるまでのリアルさだった。
また最後に驚いたのはエンドロール!監督:安田淳一さんや優子殿を演じた沙倉ゆうのさんの名前の多さよ…これがインディーズ映画なるものか…となんだかちょっとハラハラしてしまった。みなさまお身体にはくれぐれもお気をつけください…。
まだまだ書き足りてない部分はもちろんあるのだが(西経寺住職夫妻や優子殿、他の斬られ役の人たちや心配御無用ノ介…)、それくらい見どころの尽きない映画だった。いつ2度目を観に行こうかな…っと、なに?侍タイムスリッパー【デラックス版】がチネチッタで上映しているって!?これはいかん、大変だ!!