2026年2月10日
9日は全国的に雪が降った。この寒波を私は待ちわびていた。地元は雪があまり降らず降ってもたいして積もらない。雪に対して憧れがある。雪遊びがしてみたかった。朝家を出てパートナーの運転で、山の上にある森林公園に向かった。
市街地を離れ森に入るにつれてだんだん雪が増えて、期待が高まる。この先の峠を越える道は、トンネルの向こうで通行止めになっているという看板があった。私たちより前にここを通った数台分の轍は、この山を目的に来ている人々のものだということだ。
森林公園の駐車場まで行くと彼らの車が停まっていた。カラフルなウェアにリュックとピックを持った登山客だった。彼らを横目に私たちも駐車をする。車を降りる前にパートナーがスキーウェア上下とスノーブーツを履かせてくれて、新雪に一歩踏み出した。15から20センチは積もっているようで、ふわふわの雪にもふっと足が沈む。最高だ。これがやりたかった。さらさらの雪を蹴散らしながら、雪が降ってからまだ誰も踏み入れてない方向へ、雪に埋もれて見えなくなっている池の横を通り、木陰の広場の去年バーベキューをしたポイントへ持ち物を運んだ。地面をスコップで平らに整えてから折りたたみの机と椅子を2人で設置する。一息ついて、雪に背中からダイブした。柔らかく、ひんやりと冷たい。見上げた木々の向こうに晴れた空が見えた。気持ちいい。

以前の冬にSNSで、スノーボールメーカーを使ってアヒル型の雪玉を作る動画を見た。それがやりたくてパートナーと100均を回ってそのスノーボールメーカーを2つ、探して購入しておいたのだった。とても簡単に小さな手のひらほどのアヒル雪玉ができて楽しい。100個作ろうと決めて拠点のそばで2人で無心で作った。群れができて写真を撮った。駐車場の方は車通りが増えて、時々人のはしゃぐ声が聞こえてくるようになった。

車に荷物を取りに戻ったパートナーが、途中の池のほとりにいた年配の登山客に話しかけられていた。そのおじさんはここまで来たのに登山靴を忘れて帰るところだったようで、「この池は氷が分厚いから今日は乗っても大丈夫」と教えてくれたらしい。そして「騒がしい四駆の軽の連中は走り屋だ」ということだった。私は池が凍っているか半信半疑だったが、パートナーはおじさんの言うことを信じて雪を漕ぎながら池に向かって行った。斜面を下って一段下がったところに乗り、雪をどかすと氷が見えた。おじさんの言ったことは本当だった。
近くに誰もいなくなったから、スピーカーでXGの曲をかけた。お腹がすいたので、シングルバーナーとやかんでお湯を沸かしカップ麺を食べた。山の上の方の道から人の叫び声のようなものが聞こえる。走り屋は雪道を攻めるのが楽しくてたまらない様子だった。駐車場のある向こう側の道幅の広い場所ではドリフトをしてクルクル回るJeepが見える。遊ぶのはいいけどうちの車にぶつけてくれるなよ、と思った。
雪だるまを作りたくて、見よう見まねで作ってみることにした。私の見よう見まねとはどうぶつの森のゲームの中の雪だるま作りだ。最初は小さな玉を作り、ある程度大きくなったら慎重に転がす。雪がさらさらでなかなか固まらなかったけど、辛抱強くやっていたら大きくなってきた。遅れて隣でパートナーも雪玉を作り始めた。よいしょよいしょと転がして、合体し、目や耳や手になる枝や木の実を見つけて飾りつけた。めっちゃ楽しい。ポチャッコとコラショのあいのこみたいな顔になった。

寒くなったので、紅茶を飲んで落ち着いた。雪が降ったのでメルティーキッスを買ってきたのだった。それを口に入れてから温かい紅茶を飲み、口の中でチョコを溶かすとおいしかった。
さて、残り、やることといえば雪合戦だ。意を決してすこし開けたところでやり合った。勝ち負けとかはない。疲れたら終わり。やってみると、激しい運動ということがよくわかった。厚着で雪の中は動きにくいし、雪を拾うために前屈を繰り返し、投げるにも腕を使う。雪玉を避けたり手で受けたりしてたけど、一度顔に受けてしまって雪が口に入り、顔もビチョビチョになってウェーン!!と泣いていたらめちゃめちゃ笑われた。当たると確かに衝撃はあるけど、痛くはなくて楽しい遊びだ。
昼過ぎになって、気が済んだので机や椅子を片付けて車にしまい、少しあたりを散歩して帰ることにした。
誰も踏んでいない雪の上を歩くのはえも言われぬ喜びがある。なんだろうこれは。もし私が子規なら一句読んでいたはずだ。美しい雪原を、汚す、傷つける、とはまた違う、踏みしめるという喜び。雪が降っても溶けてもこの足跡は消えてしまう、それゆえの一過性・可逆的な干渉。雪という不思議な現象。私はそれに夢中になった。そしてまた雪に飛び込んだ。犬か、とパートナーに言われた。べちゃべちゃでなく、黒くない、さらさらの白い雪。きらきらしていて美しかった。
車に戻り靴を履き替えスキーウェアを脱いで、白いダウンを着た。乗ってきた車の色も白かったが、雪の白さに見慣れると、ダウンの白も車の白も、くすんでいて全然白くなく見えた。白って200色あるんやな。
帰りに急にパートナーが同じ山にある滝を見たいと言い出した。せっかくここまで来たので行こう!と道を調べて、手前の少し広いところに車を停めて山道に入った。防水のトレッキングシューズを履いてきてよかった。道には、誰かがこの先に行って戻ってきた足跡がひとつあった。サイズも歩幅も大きい。慣れてそうなその足跡のある場所をなるべく踏みながら川沿いの慣れない道を登っていく。結構急な傾斜もあって、私は帰りの下り道を想像して恐ろしくなったが、パートナーがどんどん進んでいくので着いていった。
最奥にあった滝は半分凍りつき、荘厳だった。しばし眺めて、手を合わせて、来た道を無事に帰れますようにと祈った。

帰り道は、滑るわ踏み外しそうになるわで本当に怖かった。死ぬかもと思った。登山靴のパートナーはあまり気負わずに歩いて先導してくれるが、私は怖くて仕方なくて、何度かママーー!!と泣いて叫んだ。膝が痛くなった。
それでもなんとか下って車のところまで戻ってきた。平地は最高。
山を降りて町まで戻ると路肩にあった雪はほぼ溶けて、道路の水をバシャバシャと車が巻き上げて通っていく。
1日だけの、夢のような日だった。