無題

nagi_c
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 色々あって異性が苦手になった。

 それから出会う人は、手の届かない距離で会話するのは問題なかったけど、近すぎると体が固まるようになった。

 それも最近ようやく慣れてきた。マシになった。

 ただ信用は確実になくなって、どれだけ笑顔で話をされても、言葉を選ばれても、なんとも思わないどころか腹の中を否定するようになった。好意なんて行為に繋がるんだろうと白けた目を向けるしかできなかった。

 だから、嫌なことがあったと話をして、それを笑い話にできればと思った。笑い話、もしくは私が「嫌だった」という言葉に同調さえしてくれたらこの話はこれで消化できた。

 でも異性からも同性からも帰ってきた言葉は「よかったね」だった。普通こんな話を聞けば、それは自慢話になるのか、と後で気づいた。その時は単純に、嫌な思いをしたと話したのにどうしてよかったと言われるんだと思考が固まった。

 櫛でとかしただけの髪を綺麗と言われたことを「見る目ないんじゃないか」と私は思ったが、それを聞かされれば「何もしてなくても綺麗な髪だと思われた」ということになる。

 化粧をしていない顔なのにタイプだと言われたことを「よく見てないくせに適当なことを言っている」と私は思ったが、それを聞かされれば「化粧してなくても可愛いと思われた」ということになる。

 何もかも気持ち悪い、嫌だ、触れるな関わるな、私はただ嫌だったのに、人が聞けばそれはきっと贅沢と言われるのだろうな、なんて考えて、いよいよ私は言葉にするのをやめようかと思ってきた。言わなければなにも変わらないんだから、それがいい。

 だからきっと私は、文字の世界に逃げたんだろうな。