石に会いに行く前に

半井ユキヤ
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 ミネラルマルシェに一度行ってみたい、と何年も前から思っていた。私は石が好きである。そんなに多くはないが、鉱石標本や化石、宝石のルースを持っている。長年かけて少しずつ集めたものだ。

 そんな憧れの地に、行けることになった。本当は同じ日に行きたいイベントが他にも二つあったのだが、数分熟考した結果、ミネラルマルシェを選んだ。少し遠くへ行きたかったのもある。ここしばらく特に何があったわけでもないが、好きな小説執筆にも身が入らないほど少し、本当にうっすらとモヤッとした気分が続いていて、とにかく気分転換がしたかった。

 行きたい気分は山々、しかし正直、日々お疲れ様な配偶者に付き合ってもらうのは少々気が引けた――のだが、行ってみたいと伝えると配偶者は車を出すのを快諾してくれた。本当に私に甘い男である。「だるいから嫌だ」と断っても全然構わないのに。

 そんなこんなで、朝食を終えたらいそいそと身支度を整え、車に乗り込みミネラルマルシェに

「…………その格好で行くんですか?」

「なんで?」

「おぬしその格好……今日暑いぞ」

 レッツゴーしたはいいものの、何と配偶者は厚手のセーターを着ていた。しかし天気予報で見た予想最高気温は二十五度以上。「この中をその格好で!?」と周囲から思われることうけあいである。っていうか、私も思う。

 配偶者はとても不思議そうな顔をした。

「えっ今ちょうどいいのに?」

「今日真夏日ぞ!?」

「着る服がない」

 彼はいつもそう言うが、そんなことはない。彼の服は必ず存在している。何故なら、私が彼の誕生日に何度も服をプレゼントしているからである。

 ファッションに無頓着な彼は、大体某ファストファッションブランドの、ものすごくシンプルなもので済ませようとする。しかしそのままにしておくと『年中上から下までユ●クロおじさん』が完成してしまう。

 確かに無難だ。そしてシンプルなので似合う。背が高いからシュッとして見える。が、如何せんシンプルすぎる。『とにかく●ニクロ大好きおじさん』と思われてしまう可能性も否めない。しかも彼が選ぶのは黒や茶、グレー、暗い青系ばかり。厳しめの高校の校則か。

 なので、誕生日プレゼントにかこつけて、私が某ファストファッションブランド以外のものを選んでいるのだった。派手な色柄は着ないだろうことは理解しているから、彼の好みに沿いつつも何とか彼が抵抗なく着られそうなものを一生懸命探し、それを購入している。滅茶苦茶頑張っている。功労賞をもらったっていいくらいだ。

 だから、服はある。あるったらある。

 というわけで、仕方がないので「真夏日でなくともそのセーターはこの時期はちょっと……」「ていうかそれ秋冬用」「その格好だと暑くなっても脱げないでしょ下くたくたの半袖のTシャツだけでしょ」と説き伏せ、一旦帰って着替えさせてから、改めてミネラルマルシェに旅立ったのだった。

 で、肝心の初めてのミネラルマルシェはどうだったか?

 楽しかったに決まってるでしょ!

@nakyukya
まったくここはしずかなインターネッツでつね