疑惑の焼きそば

半井ユキヤ
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 今日はいい夫婦の日らしいので、ひとつ夫婦に関する話をば。

 初デートは動物園だった。よく晴れた気持ちのいい秋の祝日だったと記憶している。

 午前中に動物園の最寄り駅で待ち合わせして、広い園内をゆっくり巡るうちに、昼食の時間になった。しかし二人ともあまりお腹が空いていなかったので軽くすませようかということになり、売店で焼きそばを買って食べた。

 そのときに、私は言った。言ってしまった。

「昨日のお夕飯も焼きそばだったんだよねぇ。具ナシだったけど」

 ただの食事時の楽しい話題のつもりだった。「何やそれ」とちょっと笑ってもらえれば、という軽い気持ちだった。

 一人で食事をとる際、面倒くさがって手を抜きたがるというのもあるが、それ以前に私は麺が好きだ。焼きそばや冷やし中華は、具を用意しなくても麺だけで満足できる。炒めてソースで味付けした麺おいしい。茹でて流水で洗ってつゆかけた麺おいしい。麺大好き。これは具ナシで食べてもしょうがないね。

 しかし彼はそんなことは知らない。何せ知り合って一年と経っていない。私について把握できている情報なんて高が知れている。

 『具ナシの焼きそば』

 何の事情も知らず「それだけ」を聞いた彼にとっては、さぞ衝撃的だっただろう。

 肉はともかくキャベツすら入れない、ソースで味付けされた麺のみの焼きそば――日々私がそんな粗末なものを食べて生活しているということに関して、心配したのかもしれない。いや、かもしれないじゃない、聞いたら普通心配するなこれ。逆の立場だったら絶対心配するわ。こんなの好きで食べてると思わないじゃん。

 そんなことがあってからもう随分と経つが、彼が私を過ぎるほどに心配し甘やかすのはこれのせいだったのではないか、とずっと思っている。

 もしかしたら、違うかもしれない。でも可能性は高そうだ。

@nakyukya
まったくここはしずかなインターネッツでつね