あの頃のわたしたち

半井ユキヤ
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 あれが起こったのは、配偶者の異動が決まり引っ越しの準備をしていて、段ボールに本を詰めていたときだった。四階建て、エレベーターもない古いアパートの四階。震源地から遙かに離れていたのに、結構揺れた。

 テレビを見ていたら、時間が経過するにつれどんどん被害が大きくなっていった。

「引っ越し、やめになるかもなぁ」

「いや、行くかなぁ……」

 配偶者は難しそうな顔をしていた。

 とりあえず引っ越しの準備は続行。

 翌々日、配偶者は被災地に行くことが決まり、その翌日に発った。

 それから数日、一人だったり、配偶者のご両親が手伝いに来てくれたりしながら、何とかやっと準備は整い、私は一人で新居に引っ越した。雪が降っていてとても寒かった。なのに何でか私は靴下を履かずにいて、足がものすごく冷えたのを覚えている。

 配偶者が帰ってきたのは、三月二十日ごろだったか。それまで、少しずつやってはいたけどなかなか片付かないアパートの部屋で、一人過ごしていた。

 直接的な被災はしていない。

 それでも、心配で、心細くて。

 いずれ、東海地方を中心に大きな地震が起こるという。ずっと昔から言われ続けていることで、生まれ育った町では散々避難訓練をしてきたし、少し揺れた程度では動じることはない。

 でも、生きている間は起こらないでほしいなと思う。

 起きてしまったら、きっと配偶者はまたどこかしらに行かされて、私は一人になって、あのときと同じになってしまうだろう。当時はいっぱいいっぱいであまり自覚していなかったけれども、思い返すと少しだけしんどい。もうこんなのは経験したくない。

 私はずっと忘れない。忘れられない。

@nakyukya
まったくここはしずかなインターネッツでつね