ITエンジニアが今からデザイナーになろうとしている話

ナミキ
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「デザイナーになりたい」

初めてその言葉を口にしたのは、17歳のときだった。

しかし、当時高専生だった私は、その大幅な進路変更を選ぶ勇気がなかった。学校の授業以外で能動的に学ぶ手段を知らなかったし、親に頭を下げるのも嫌だった。5年制の高専を3年で修了して大学へ進学する同級生もいる中、自分はそのまま高専に残り続けることを選んだ。いや、「何も選べなかった」のだ。

かくして、流されるままに就職し、技術に興味のないITエンジニアができあがってしまった。

ちなみに、そもそもなぜ高専に進学したのかというと「パソコンとインターネットが好きだから」というとても浅はかな理由である。中学時代から数学も理科も得意ではなかったため、進学後は非常に苦労した。

ITエンジニアとしての生きづらさ

ITエンジニアとはまさに「好きこそものの上手なれ」を体現したような職業である。日々新しい技術が登場する世界で、それらに興味を持ってキャッチアップしているエンジニアが一番強い。

私のエンジニア人生には、常に苦痛がついて回った。

楽しくないから難しい、難しいから楽しくない、どちらが先かはわからない。とにかく難しくて楽しくないのである。インターネットは好きだが、それがどうやって動いているかには興味がない。私が好きだったのはインターネットの仕組みではなく、その上で動くコンテンツの部分だった、と今なら言語化できる。でも、長年それを自分で認めることができなかった。

周りについていきたくて、自分の気持ちをごまかして技術を好きなふりをし続けた。尖った専門性を得たくて、特定分野のインプットとアウトプットに努めた。必要とあらば休日に勉強もしたし資格も取った。1日1回、最新のニュースを追いかける時間を設けたりもした。そこに「楽しい」という感情は一切なかったが、見て見ぬふりをし続けた。

そんな働き方を10年以上続けた結果、同年代エンジニアの中では一歩劣ることになってしまった。当然である。興味がないから深く踏み込まない、深く踏み込まないから表面的な知識しか身につかない。経験年数の割に知らないことが多すぎて、自分が中堅エンジニアを名乗ることに後ろめたさがある。

最近になって劣等感を抱く機会が増え、「このまま肩身の狭い思いをしながら、人生の大半を好きじゃないことに費やしていいのか?」という自問が浮かんでくるようになった。

別の仕事を始める選択肢

これまでずっと、自分はこのままエンジニアとしてやっていくしかないと思っていた。しかしある時、その気にさえなれば他の選択肢だってあることに気付いた。働きながら大学に入ったっていいし、近年は独学で学べるコンテンツも充実している。

好きなこと、興味のあることを伸ばしていくとしたら何だろう。これまでの経歴はいったん無視して、自由に考えてみることにした。

絵は?ダメだ、上達のための練習が全く続かなかったから仕事にはできない。

音楽は?ダメだ、自分の好きなものしか作れないから、依頼に合わせて作るのは難しい。

ゲームは?いやいや、それじゃエンジニアと変わらないじゃん。

じゃあ、デザインは?

そこで冒頭の、かつて淡く憧れていた気持ちを思い出すのだった。

デザインに興味を持った理由

色が好き

ここ1年ほどで自分は「色」がに関心があることを自覚し、色について語れるようになりたいと思ってさまざまな本を買い漁っていた。色とりどりの色を見ると楽しくなるし、それぞれの色に歴史や役割があるのも面白い。

今とは違う仕事をするなら、色を扱う仕事がいい。

伝えたいことを形にするのが好き

エンジニアとして社内外で発表する際、スライドを作るのが楽しかった。図を描いたり文字サイズに変化をつけたりして「どうすれば分かりやすく、かつ意図したとおりに伝わるか」を考えるのはとてもやりがいのある作業だった。

また、技術ブログを書くのも楽しかった。自分が仕事で何か問題にぶつかって、それをなんとか解決できたとき、同じ問題に遭遇した人が検索して助かるようにという一心でブログを書いていた。技術そのものには興味は持てなくても、自分の知識と経験を駆使して書き上げた記事はひとつの作品のように感じていた。同僚や上司から褒められる機会もあり、自分の自信にもなっていた。

周囲にデザイナーが多い

過去に在籍していた会社ではそれなりに大きいデザイン部署があり、親しいデザイナーの同僚が何人かできた。かれらの話すデザインの話はいつも魅力的だった。どんなことを考え、どんな意図を含めて、どんな表現に落とし込むのか。自分もそれを仕事にできたら楽しいかもしれない、と感じる機会がたびたびあった。

どうやったらデザイナーになれるのか

最初は、働きながら通信制のデザインスクールに通おうと考えていた。しかし身近なデザイナーに相談したところ「デザイナーは名乗ったもん勝ちですよ」「叩き上げもありですよ」と返ってきた。なので、もういきなり作ってしまおうかなと考え始めた。本業を辞めてデザインに専念するのは現実的ではないので、まずは副業として小規模な案件を受けられるようになるのが第一目標である。

善は急げと、とりあえずAdobe Illustratorと参考書数冊を買ったのが10日前。

知識も経験もない状態から何をするか。知識のインプットはもちろん必要だが、数をこなして経験を積むことが何より重要だと考えた。そこで、実際の仕事を募集する前に、仕事ではないデザインをいくつか作ってみることにした。

まずは宣言も兼ねて、自分のポスターを作った。自分の思いの丈や今後の抱負を乗せて、あたかも企業のPR広告かのようにまとめた。

同様にポスターを作らせてくれるフォロワーを募集し、応じてくれたフォロワーの架空のポスターを作った。ふざけているように見えるかもしれないが、これでも真面目に考えて作っている。

他にも手を挙げてくれたフォロワーがいるので、順次作っていく。その中には本当に印刷して公に貼られるかもしれないものもあり、ほどよい緊張感で制作に取り組めそうだ。

今の気持ち

デザインに関するインプットは楽しい。知らなかったことを知れるのが嬉しい。IT畑ではずっとインプットが苦痛でしかなかったので、インプットが楽しいなんてことがあるのかと感動している。

一方で、知らないことが多すぎて、あれもこれも勉強しなくてはという焦りがある。全てを一度にやろうとするとパンクして思考停止に陥るので、無理のない範囲で地道にやっていこうと思う。

11/27から始まる多摩美術大学の講義はぜひチェックしたい。

@namiki
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