いつかまた口笛を吹く

ブチ
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公開:2024/10/5

Buzyさんの「鯨」を何年か振りに聴いた。サブスクが一般的になってから過去の音楽を聴くことが増えて、毎度、埋めた覚えのないタイムカプセルをたまたま見つけてしまったみたいなきもちになる。当時はスタイリッシュな雰囲気に身を任せて聴いていた「鯨」を、はじめてじっくり歌詞を聞き取りながら流してみる。すると、とても頭に響く一節があった。比喩として陸に上がった鯨の悲哀を唄っている内容なのだけれど、彼らが海を捨てた理由が歌の中ではこう唄われている。「口笛を吹きたい気分だったのでしょう」。口笛を吹きたい気分。なんて納得と淋しさに満ちた歌詞なんだろう。そうなのだ、わたしたちは口笛を吹きたい気分に誘われて人生のあちらとこちらの線をひょいと乗り越えてしまったりする。人生は気分の繰り返す浮き沈みに翻弄される舟に乗ってるみたいなもので、ふと浮き上がった瞬間の勢いで大きなものを選んだり選び取らなかったりして生きていく。ふしぎと「口笛を吹きたい気分」という言葉が胸にすぅっと沈んだ途端、そこを取っ掛かりとして今までぼんやりとしていた他の歌詞も急に色鮮やかになってきた。「一瞬のトキメキ 永遠のサヨナラ」。塗り直したタイムカプセルの写真は、いずれまた砂に埋もれていくだろう。浜辺は海と違ってずっとそこに在り続けて、そこに在り続けるからこそ古びてしまうのが、切ないね。口笛は海風に乗って消えていき、ただここに残り続ける大地の上でわたしたちは生きていく。

@nananto0
ガイトウ(街灯/外套) ことばで照らしたり、ことばを羽織ったり。