おわりの後、はじまりの前

ブチ
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あまりにもものの理解が早いひとが、興味のある分野に集中するために労働環境を変えたい、という。どんな分野?と尋ねたら「一言で言うと、無限」とのこと。あまりにもものの理解が早いので、それくらい果てのないものじゃなければつまらないのだという。神様の解けないパズル遊びみたい、とびっくりして返したら「まさにおっしゃる通りです」。このひとは、だいたいのことは「まさにおっしゃる通りです」と返答するのだ。そりゃあ、無限に比べたらほとんどのことは誤差の範囲内のおっしゃる通りだろう。戻らない冒険に出かけようとしているひとに熱いエールを送って駅で別れ、一方通行の電車のなかで考えた。無限/有限という対があるとして、多くのひとは無限を突き詰めるかわりに有限を愛でる。果てしない物語をはじめるのはこわいから。でもほんとうは、有限を愛することは同時に無限を強烈に意識せざるおえない。勇気がないわたしは、たぶん有限にピントを合わせて愛し続けるだろう。時間というもの、存在というもの。終わるものは必ずはじまりがあるということ。終わりの後とはじまりの前に向かうひとに遠くから手を振って、わたしはここに居続ける。どうか、いい夢を。いい冒険を。きっとどこかで、またお会いしましょう。

@nananto0
ガイトウ(街灯/外套) ことばで照らしたり、ことばを羽織ったり。