歌をうたいたい。冬の終わりは特にそう。春はそれ自体が歌みたいな季節だから、その予兆でうずうずするのかもしれない。春を待ちながらうたうのはどんなメロディがいいだろうか。できるだけ軽やかで、雪に沈まないような。それか、しっとりと冬の空気に馴染んで風を待つような。どちらにせよ、春の予感は歌を口ずさませ、歌は春を呼んでくる。そうだといいな、とおもう。誰かの歌に意味があるのは、誰かの呼吸に意味があり、誰かの鼓動に意味があるのとおなじことだから。今年のわたしが呼ぶ春は、去年とも来年ともちがう春だろう。最初で最後の春を呼ぶための、最初で最後の歌。なにをうたおうかな。なにをうたったっていい。わくわくするね。まるで人生みたい。