好みの黒糖パンが、ない。黒糖パンとは、わたしが朝食に好むたべもののこと。ないとは、世界から消えてしまったわけではなくて最寄りの駅前に売っていないという意味。ここに越してきて3ヶ月弱、代打である出来合いのフレンチトーストで凌いで来たのだけれどそろそろ限界だ。わたしの健やかな朝のために、どうしても好みの黒糖パンが必要。別に高いやつじゃなくていいのだ。5個入り150円くらいで、ふわふわしすぎていない歯切れのよいやつ。引っ越し前はアパートから徒歩五分のドラッグセイムスや徒歩8分の100円ローソンが扱っていた。今の住まいの近くには、どちらもない。かなしい。越してきていちばん困ってることがこれかもしれない。黒糖パンがないばかりにセンチメンタルになってしまう。例えばこれがプロテインだったら通販で取り寄せるのだけど、なにただのパンだからなあ。そこまで大袈裟な感じじゃないんだよなあ。とはいえ、ただのパンにここまで恋い焦がれているのだから、早急にどうにかした方がいいと思われる。次の休日あたりに、比較的手軽に行ける距離のスーパーやドラッグストアを総ざらいしようかしら。あと、履歴書をつくって、知人に返す漫画を郵送して、退職届の原本を提出して…調子のよくない間に先へ先へと延ばしていたことが、山と積もって目の前に立ちふさがっている。こんもりとした山は見晴らしをわるくし、探せばあるであろう黒糖パンをどこかに隠してしまっている。どこかにある黒糖パン、山を越えて必ず見つけるから待っていてね。充実の朝を取り戻すために、まずは書類の記入からはじめよう。