■短編です。収録されている本は
東京創元社刊『あなたも名探偵』
もとは同じく東京創元社の雑誌『ミステリーズ!』に掲載された懸賞付き犯人あて。【問題編】が掲載されたあと、【解答編】が載る次号までに推理を送って当たると懸賞がもらえたらしい。
というわけでこちらの『紅葉の錦』も当然、【問題編】と【解答編】からなる犯人あて。間に「読者への挑戦」が挟んである本格ミステリ好きが大好きなやつですね。
■あらすじ
卒業旅行として温泉宿を訪れた大学生たち六人。絶景の紅葉といわく付きの祠のある山の温泉宿で過ごす彼らだが……。
■以下ネタバレ
【解決編】まで読んでも解決しないことが多いのが麻耶っぽいぜ!(褒めてる)
まず、卒業旅行に来た大学生のうちの一人の視点で話が進む。いわくの祠になぞらえた謎の現象が起こり、不思議に思ったり怖がったりしている部分が【問題編】のほとんど。これは祠の伝説と謎を解く系の話かな〜と思わせぶりだが、どっこい!こちとら麻耶雄嵩に慣れているので。
児童向けレーベル刊行しますの時にあんな邪悪なエグ真相
を書いた麻耶雄嵩が、正面から犯人あて、と冠している小説に、祠の伝説と謎の現象の犯人を当てる“日常系”なんて持ってくるかい!少なくとも殺人は絶対に起こるんじゃい!と確信。(結果的に私が当てたのはこの部分と探偵役が誰なのか、という部分だけです……読者への挑戦は大好きだけど自分ではまったく解けた試しがないです!)
■最初の視点人物である大学生の一人が、祠の伝説にならった不思議現象の犯人をつきとめます。あっさり解決します。この犯人というのが、たまたま同じ宿に宿泊していた探偵のワトソン役くんです。いたずら程度の日常系の謎とはいえ、ワトソン役くんが堂々と犯人です。探偵の傍らにいる者としてそりゃどうなんだい、しかしそれが麻耶雄嵩の持ち味ですので。(たぶん。私はわりとこういう所が好きです)
この探偵&ワトソンは麻耶雄嵩のシリーズ登場人物で、大学生の視点で話が進んでいるうちは探偵とも明かされず、名前も偽名を使っていたのですが、容姿の描写で一発で分かりました。山登りにもかっちりスーツを着込んだメガネ、木更津(探偵)おまえしかおらんやろ〜とこのへんは作者のファン的な意味で楽しかった部分です。木更津好きなので嬉しい。
ここから、語り手がワトソン(香月)くんに移り、回想という形で自分の犯行を認めます。あっさりと祠の謎と不可思議現象、解決です。【問題編】の時点で解決をみせたのでこれはもう“前提”という体で扱われるものになります。
そして、これが解決し語り手が香月に移って数ページで殺人事件が起こり、あっという間に【問題編】は終わりです。殺人事件が起こって被害者もまだ誰なのか分からないうちに終わり。ほら、やっぱり殺人起こるやん、という個人的な当たり判定と、殺人事件が起こった瞬間に【問題編】が終わりという潔さにうっとりしますね。(個人的感想です)
■というわけで、【解決編】はまず被害者が誰なのかを論理的に導き出すところから始まります。
犯人あて、読者への挑戦、と真っ向から挑んでいる以上、被害者が誰なのか?というのも【問題編】に書かれている内容から導き出せるものでないといけないわけです。警察の鑑定結果を……とかはアンフェアになるのでいけません。
この被害者を導き出すロジックはさすがガチガチ本格畑の麻耶さんのこと、しっかりしてます。醍醐味ですね。一点、潰れたピンポン球の件だけがちょっと強引かも?と思わなくも無いですが、一応説明はされているので納得できなくもない。ここはまあ、よろしい。
そして被害者が分かればおのずと犯人が導き出せるということで、犯人特定までいきます。被害者から犯人特定はなにも言うことありません。ロジックの勝利。
探偵のロジックの展開で犯人が誰かまで特定する、ここまでで【問題編】への答え合わせとしてはほぼ完了でしょう。正答者がどのくらい居たのか分かりませんが、ここまでの推理が合っていれば正解と言っていいのではないでしょうか。
その後は警察が到着し、被害者の断定と犯人の逮捕がなされます。木更津(探偵)の推理どおり、これで事件は解決です。
が!
この先を読むと逆に謎が出てきてすっきりしません。犯人逮捕で事件は解決、犯人あてとしても完了しているのでそれは良しなんでしょうが、解決しない事柄がけっこうあります。
まず、犯人は逮捕されて犯行を認めるものの(犯人であることは確定)動機をいっさい話しません。それはそれで、犯人あてとしては犯行の方法やそれを推理するロジックさえあれば、動機は不必要な要素だから、と思えなくもないのですが、犯人が動機をかたくなに話さなかったことが強調されているので「不必要だから省いた」とは思えないところが気になります。さらに木更津(探偵)も、動機は推察できるがあえて言う必要はない、とわざわざ言及しているところが引っかかります。
これは犯人あて、と言って犯人は判明して完了しているものの、動機を推理しろっていうことか?(こういう事ばっかり考えて読んでるの、本当ミステリ読みって頭おかしいと思う。)
他にも読んでいて違和感を感じる部分があったのにも関わらず、最後まで説明がなされなかった部分もあり、本当にすっきりしないです。お話のラストもお話としてのこういう終わりね、と思いきや、まったく謎の一文が出てきて、何これはどういう意味?と頭を抱えて終わります。
■以下は内容を読んでいないと意味不明な文ですが自分が気になったところとか。
■宿は二人一部屋、四部屋しかない。上限で八人しか泊まれない。木更津&香月と大学生六人でぴったり埋まってしまう。直前に卒業旅行をキャンセルしたはずの同級生の部屋がそもそも無い。女子三人は相部屋、ということもできるが、丁寧にベッド同士の間に隙間が空いていることが書かれている。
(全くの余談で、私自身ツインのホテルに女子三人で宿泊したことがあるので、予約時に伝えておいて三人宿泊の料金を払えば二人部屋に三人宿泊は可能ではあると思う。)
福引で当たった温泉旅行、という創作にしか登場しない展開だけど、この場合は宿泊日は指定されてるのだろうか?指定されていた場合、福引の景品の日にち指定と大学生の卒業旅行の予約とどちらが先かによるが、どちらにせよ「最初からキャンセルした同級生を抜いた六人で予約していた」事になってしまい何だかおかしい。
景品の宿泊日が指定されている、のは一般的に考えると少し無理があるような気がする。そんな指定された日にちに旅行にすぐ行けるものではないだろう。木更津(職業探偵)&香月(ワトソン役、本業は作家)のような自由業なら都合はいつでも付くかもしれないが。いつからいつまでの期間内で好きな日に予約できる、というのが現実的かな。だとすると、木更津&香月が予約を入れたのは、大学生卒業旅行のグループが一人キャンセルした一週間前、より後の時点なのか。そんな急に旅行?しかし自由業なので融通はききそう。
そうすると、木更津が事前に追加料金を払うからもう一部屋融通して欲しいと伝えたが満室だからと断わられた、と矛盾するかも。自由業で融通がきくなら、満室ではなく二部屋取れる日にずらせば良いのだから。
とまあその辺は引っかかるけど分からないので置いておく。
■動機は明かさない系の話として割り切るしかないのか?
被害者の背中に痣があったのを見て殺害を決意した、のなら、被害者は一週間前に卒業旅行をキャンセルした同級生を殺害していてその際にできた痣なのではないか。キャンセルはメールで送られてきただけなので、本人とは直接会ったり話したりはしていないので、(一週間前に同級生を)殺害した犯人(今回の被害者)が同級生を装ってメールを送ってキャンセルしたとも考えられる。
時系列整理。一週間前に同級生を殺害(もしくは何らかの加害を加える)、その際に今回の被害者は痣を負う。今回の被害者が同級生を装って卒業旅行のキャンセルのメールを送る。一人分キャンセルされたので宿に空きが出て、木更津&香月が宿泊できた。全員の宿泊中(この話のストーリー上)で今回の犯人が今回の被害者の痣を見て、同級生を殺害したのが今回の被害者であると気付き、今回の殺害を計画する。というところだろうか?
キャンセルした同級生と今回の犯人は付き合っていただとか何かしら親しい関係。そこらへんが動機?
もし、最初から福引の景品の旅行の日にちが決まっていたとしたら、キャンセルが発生する前にそもそも六人でしか予約していないことになってしまい、この場合だと本当にわけが分からなくなってしまう。
■ラストは怪奇風の味付けか、と思いきや、失明もよく分からない。タイトルの紅葉の錦の元ネタの歌にもかかっていないぽいし。退屈だ、と思っている描写があるのでこれは刺激ということなのだろうか。分からない。
■な〜んも分からんぜ!
これも麻耶雄嵩の風味だと思って楽しみましょう。もうそうしかない。本当はね、描かれていないだけで世界の中には真実はあるんです。でも、それは我々には見えていないし、考えても分からないだけなんです。そういうものって思いましょう。はい、麻耶。
■レビュー漁ってたらこれロジック部分(被害者絞り込みと犯人)は当ててる人いてすごいなって思いました。
■ストーリーの中の事以外の視点の感想
探偵が木更津なのは、麻耶雄嵩作品のシリーズ探偵の中では非常にシンプルでクセがないロジカル派だからなのかなって思いました(本当はクセはあるんですけど、そのクセ部分を担っている香月くんが推理の場においていつものやつを発揮しないから、木更津がごくごく普通の切れ者の探偵をやってしまっていますね)。まあ犯人あての【解決編】にはクセ不要で純粋に解答を見せる必要がある、と考えれば納得。それゆえの人選でしょう。香月くんのクセ部分は祠の不可思議現象の犯人、というところで補充されている気がしますし。
■シリーズ探偵を登場させる意味
犯人あて、という企画ありきなので、ノンシリーズの短編だと思ってました。シリーズ(と言ってもいいのか不明なほど統一されていないし、探偵の出番がないものもシリーズカウントされているのでそもそもがかなり曖昧ではある)ものではなく、企画ありきのアンソロジーなどに参加する際にはその話一発限りの探偵が出てくることもままあるので、そういう系統なのかなと。ミステリって、例えば今回の犯人あてみたいに、○○っていうテーマで集めたアンソロジーや雑誌の特集なんかが割とある気がします。そのテーマに合わせるときにシリーズ探偵を出せない&出さないって場合もあると思います。それはそれで話が面白ければ良いんです。と思ってましたが、
たまたま直近に読んだ本
の中に、雑誌などに掲載する短編でもなるべくシリーズものにするか、テーマ(企画のテーマとは別の作家自身の中でのテーマ)を入れておいたほうが、のちのちに短編集として出しやすい、何の統一性もない短編の寄せ集めを、短編集として出せるのはよほどの売れっ子作家だけ、ということが書かれていて。
そういう点を考えると、シリーズ探偵を出せるのなら出しておいたほうが得策なんでしょうね、と思いました。テーマ(犯人あて、以外の作家の中でのテーマ)的にも、『紅葉の錦』は良さそうです。麻耶氏のほかの短編に『幣もとりあへず』『なほあまりある』など和歌の一部を題にした短編があるので、そちらからの統一性のアプローチも出来そう。(どちらも他の短編集に収録済み、というかその短編集はすべて和歌の一部を題にしておりましたわ……失念!)
■以上です!
木更津くんが探偵の、とうの昔に雑誌連載が終わった長編の、単行本の刊行をずっと待っています。連載から単行本化への際に直しが入るのは当然のことではあるが、もう十年近くになるのでさすがにそろそろ読みたいです。でも、せっかくならば麻耶雄嵩の百パーセントの完成のものを読みたいので、もう二、三年なら待ちます。ですのでなにとぞよろしくお願いします、先生……。