■少年漫画を読むのを苦手な人間が読んでみたよ
僕のヒーローアカデミア 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)
今更説明する必要がないくらいの超有名大人気作品ですね。名前はよく目にするしファンの方も周りにたくさんいます。かくいう私自身も、連載開始して間もない頃に当時よく飲みに行っていた友人が大絶賛していたので、そんなに面白いなら読んでみようかな、と最初だけちょこっと読んでみたことがありました。確か無料公開のキャンペーン期間とかアプリとかだった気がする。
その当時は、最初数話読んだ時点で「ハマらないな」と思ってすぐやめてしまいました。ところがどっこい、最近とあるきっかけでまた読んでみようという気持ちになり、1巻から改めて読み直してみて色々感じたことを感想としてメモっておこうと思います。
■なぜ少年漫画を読むのが苦手か。
実はヒロアカ以外にも、これ面白いよと勧められた少年漫画をいくつか読んでみては最初数話で挫折するというのを繰り返していました。どれも「何となく読みづらいな」って感じてしまって。だから私には合わないな、何となく苦手だなと思ってました。
しかし、青年誌掲載の漫画を勧められて読んでみると、読める読める。数作品にドハマりするくらいとても面白いと思ったし、まず「読みづらい」と感じることは無かった。今まで漫画を勧められて読むたびに感じていた読みづらさによる「私には漫画読むのは向いてないのかも」は何だったの?というくらい。
その「読める漫画と読みづらい漫画の違いはなんだろう?」を考えていた時のツイッターの投稿がこちら↓
ツリーになっているので途中で途切れていますが「少年向けに描かれている漫画を、とうに少年の年代を過ぎている私が読むには、それなりの慣れや努力がいる」ということです。それを筋トレと言っています。青年誌の漫画が難なく読めたのは主な読者層の年代に合っていたからでしょう。
筋トレならばトレーニングすれば良いだけ。ということでまず最初に感じていた「画面がゴチャゴチャしているように感じて読みづらい」という絵的な面から克服していきます。ぶっちゃけこれはただの「慣れ」です。件の読みづらいと感じている旨をあちこちのSNSアカウントで呟いていたら、現在進行系で漫画家目指している方から「極端な表現にしないといけないのだと思う」という内容の返信を頂きなるほどと思いました。
画面がゴチャゴチャしているように感じる、は抜け感がなく全コマの圧が強い、戦闘シーンでスピード線や効果の表現がMAXに盛られていて人物がどう動作しているかが分かりづらい、等が主に感じた事だったのですが、少年ジャンプの読者層が下は小学生くらいからな事を考えれば、小学生男子ってなんか「めっちゃ強い!」「めっちゃ凄い!」みたいなん好きですよね?そういう所をターゲット想定するとそういう表現になるのかなと思いました。あと漢字にまったく違うルビが振ってあるのもあまりに多用されると読みづらいと感じるのですが、そういうの、中二病的な子たちって好きですよね?そういう部分を考えるとなるほどな〜となり、巻数を重ねていくうちに目と脳が慣れてきてある程度読めるようになってきました。
次に内容的な面ですが、正直これは慣れませんでした。主人公たちへの共感性は低く、ストーリーへの没入感はほぼゼロに近いです。そりゃ当然です。「ヒーローになりたい少年たちの成長ストーリー」なんてくたびれた30代社会人には青臭すぎます。ハマって夢中になれるわけがありません。それでも別の理由で読み続けたので、その「ハマっていない夢中になっていない人の視点」での感想を連ねていきたいと思います。
あくまで個人の「感想」であり評論をするつもりではありませんので、頭に残らなかった部分は抜けているし、作者やファンの読者の方が意図していない方向に読んでいる可能性があります。あくまで個人の感想です。
■夢中になれないのに読み続けられた理由
前述の通り、共感性は低くそれゆえストーリーにも没入しきれなかったのですが、主人公ら少年少女たちのキャラクター性はとてもよく描けているし、ストーリー運びもとても上手いなと思いました。完全に気持ちが乗っからなくてもキャラクター性に破綻がなくてストーリー運びが良ければ全然読める。
主人公たち、少年少女たち、とひとまとめにしてしまってキャラクター好きの方には大変申し訳ないのですが、彼らそれぞれの抱えている劣等感や焦燥感、悩み、葛藤、どれもあれくらいの年齢の少年少女期には誰もがぶつかるものですよね。ということは同年代の主要読者層が読んだ場合はまるで我が身のことのように共感し、それに各々が立ち向かい、乗り越えていく様は、とてもカタルシスをもたらし勇気付けられるものなのでは無いのかな、と思いました。少年少女たちのぶつかる様々な障害(これも各キャラクターによって少しずつ違っているのがバリエーションがあり多数の誰かに刺さりそうなところが良い)に対して悩んだり立ち向かったりして乗り越えていく、という意味で少年向けの王道というか、かくあるべし、みたいな所がとても良いです。
■「無個性」という個性
異能力バトル漫画といえばもはや少年漫画ではありふれた要素ではあるのですが、それが浸透していることを逆手に取っての「個性=異能力」があることが当たり前の世界観というのは新鮮で面白かったです。他の少年漫画をあまり読んでいないので他にもあったらあれですが……あくまで私の主観的感想ということで。ジョジョの奇妙な冒険ではスタンドという異能力を使える者のほうが少なく異質であり戦える選ばれし者(ヒーロー)であるのに対し、ヒロアカでは異能力を使える事が普通で、「無個性」とされる何も異能力を持たないデクが主人公であることが逆に特別で重要なんだなと。ジョジョでは主人公はみんなジョースター家なので生まれながらに「持っている」側の人間だし、幽遊白書の幽助は霊界探偵の霊的パワーは後から手に入れ修行のシーンもあるけども元々がケンカの強い不良という強者側なので、「なにも勝るところがない平凡な人間が主人公」なところが現代っぽいなと思ったりしました(例に出した漫画が古いのは私の少年漫画読み歴が少年くらいの年齢で止まっていたからですすみません)。「みんな違ってみんな良い」などと「個性」がもてはやされる時代にこの異能力に「個性」というワードを使っているのも良いですね。
最初に私にヒロアカを勧めた友人が、「無個性のデクが努力をして戦い成長していく様が、何の取り柄もなく何者にもなれなかった俺には刺さる」と言っていたのが、きっと沢山いるであろうそういう層にも支持されているんだろうなと感じました。(※これは連載開始間もない頃の約10年前のお互い20代頃にした会話なので、それを加味しての分かるです。ぶっちゃけ今の年齢で初見でその感想だったらお前何年大人やってんの精神的成長はよ、と突っ込みたくなります)
■少年の成長に必要な大人・通過儀礼としてのオールマイト
少年たちの成長ストーリーである上で彼らに関わる大人たちは欠かせないと思います。成長するために困難を乗り越えなければいけないのは彼ら自身ではあるものの、そのためのヒントを与えたり手助けしたり足がかりになったりするのが、少年少女たちに対する大人ってもんではないでしょうか。(一つ前の段落での友人へのプチ切れポイントはそこです。お前なに少年側の気持ちでいつまでもいるんだよ、です)
まず、主人公のデクが憧れてヒーローになりたいと思った動機のオールマイト。平和の象徴とされ人々に安心を与えるために常に笑顔で登場する彼は、「こうなりたいと憧れる正しい大人像を見せるための大人」という気がします。それがNo.1ヒーローなのが「子供にとって大人はヒーローであるべし」という少年漫画世界においてこうであってほしいという価値観の表現なのではと(ちょっと穿って見すぎですかね、しかし彼が「象徴」という存在意義なのはそうな気がします)。主人公が憧れる大人、というだけでオールマイトの存在意義はほぼオッケーです。1巻序盤でデクに「個性を引き継ぐ」「後継者を探していた」と言っていた時点で、彼は物語のどこかのタイミングでデクの前から居なくなることが想定されます。それが7巻でオールマイトからデクへ引き継いだ個性の由来と、ラスボス的な存在のことを説明したあとのモノローグで、恐らく死ぬ・もしくはそれに等しい状況になる事が予想されます。いつまでも憧れて頼りにしていては成長しきれない、自分が目標としていた人物を失って乗り越えることで独り立ちすることが出来るように、存在するだけで存在意義がある大人がオールマイトなんではないかと思いました。
■教師として適任なイレイザーヘッド
デクたち主人公クラスの担任教師であるイレイザーヘッド(相澤先生)は、入学式もガイダンスもすっ飛ばしいきなり実技テストに入るという一見型破りな教師に見えるが、ヒーローになるための学校=いわゆる学園ものというより職業訓練校に近い性質なことを考えれば非常に理にかなっています。ヒーローとは「命がけで」戦ったり守ったりする存在なのでのんびり楽しくやろうというのは覚悟が違う、お門違いだよという訳ですね。見込みがないものは即除籍、半端に夢を見させるのは残酷だからというのも、成績に見合わない志望校を目指す生徒にD判定を突きつけるような的確さを感じます。その上で生徒たち個々の能力や改善必要点はきちんと把握していて、林間学校前の演習試験でのペア分けなんかもそれぞれの成長につながるものにしているあたり教師としてかなり有能ですね。オールマイトが「気が合わない」というのも分かる話で、オールマイトはいわば「俺の背を見てついてこい」というタイプなので指導するという点ではまったく下手なので(よってリカバリーガールに毎度怒られる/しかし前述の通りオールマイトは存在するだけで意義があるのでそれで良い)。
USJでの戦闘時に言及されている事にもあるが、生徒に安心感を与えるために不得意な戦闘でも正面切って突っ込んで行ったり、自分が瀕死の状態でも生徒を守るために個性を振り絞ったり(プロのヒーローでもあるので生徒ではない一般人でも助けた可能性は大だが、ここは主人公たちに接する大人という視点での感想文なのであえてそう表記します)と、生徒を成長させるために的確な厳しい指導はしつつもあくまでも生徒は守る、という姿勢なのが実に教師っぽい教師ですね。主人公たちクラスの担任というだけあって申し分ない設定です。
■ストーリー配分の上手さ
USJで実技演習かと思っていたら敵連合が出現するのが2巻です。ヒーローを目指す学園もの、から明確に今後本当の敵と戦うことを予想させる展開がくるのがこのタイミングなのは上手いですね。学校のシーンが続いていた中に緊張感が走ります。死柄木の登場コマもとても良い。造形も、割とデフォルメされた主人公周りの親しみやすいキャラデザとは明らかに違うおどろおどろしい感じで作画も怖めに描かれているのが「敵!」って一発で伝わるのが良い。このあとの展開も、学園内の出来事(まあ修行のターンですよね)と学園外で実際の敵と対峙するターンが交互に来るのが読者を飽きさせないし、修行→実戦の積み重ねになって成長していく事に必然的になっているのが上手いなあと思います。
成長していく主人公たち少年少女、それの周りにいる大人、という視点で(目下の)敵の死柄木が「心が子供のまま成長しきれていない」人物に描かれているのも対比構造になっていて良いですね。その裏には真の敵(?)がいるっぽいので今後どうなるか次第ですが。
■読んだ部分までの雑感想でこんな感じ!
また続きを読めたら数巻ごとに感想まとめたいなと思います。