こんにちは、LAPRASのことねです。本記事はふりかえり(裏)アドベントカレンダー2023の三日目のものです。
みなさんふりかえってますか?私はチームと毎日+週次ふりかえりをしています。日次のふりかえりは「集合→チェックイン→書き出し→共有→相談→チェックアウト→解散」、週次のふりかえりは「集合→チェックイン→書き出し→共有→相談→予定/達成差分確認→Fun/Done/Learn→チェックアウト→解散」という形で実施しています。リーダー的なロールをやり始めてかれこれ半年ほどこのパターンを継続してみたところ、「無理なくふりかえりが継続できているかも」と感じたので年末のこの機会を使って日次のふりかえりについて言語化を試みます。
Pre-April 2023
2022年4月、私はイネイブリングチームの一員としてLAPRASにジョインしました。このチームはプロダクトチームが開発にフォーカスできるようにスコープ外のタスクを積極的に請け負うことを使命としていました。当時の私はリーダー指揮の元で組織内から依頼された技術課題の解決を主な業務としていて、周囲のメンバーは各々の持つ専門技術を活かして開発支援を行っていました。この時のふりかえりは隔週で全員が集まって二週間の間に起きたことを書き起こして共有し、できたことやできなかったことを確認していました。二週間に一度そこそこの人数で集まって会話をしてわいわいとふりかえりする時間は非常に楽しいものでした。
一方でふりかえってみるといくつかの改善点があったなあと感じます。まずはふりかえりの間の間隔が長く途中でチームとしての軌道修正がしにくかったこと。次にチーム内のメンバーの請け負っているタスクが広範かつ専門家されすぎていてふりかえりの目的を定めにくかったこと。そして最後にまとめて二週間分の話を書き出して共有するのでただ人の話を聞いているだけの時間が多かったこと。チームが小さくタスクの数が少く、お互いの状況を日頃から自然に確認しあうカルチャーができている間は効果的な手法だったが、チームが大きくなった変化についていけてなかったのかもしれないと今では感じます。
Post-April 2023
ちょうど一年が経過した頃に私は当時のリーダーからバトンを引き継ぎました。それまでは並走していたSRチームが完全に独立したり、プロダクトの開発パワーを増強するために一部メンバーが配置転換されたりという大きな変化が起きる中で3人まで減ったイネイブリングチームの運営を任されました。それを機に私は密かにやってみたいと思っていた「まいにちふりかえり」を導入しました。
まいにちふりかえり
毎日朝会があったのでスクラムイベント的に言えばデイリースクラムは既に枠組みとして存在していました。それでもあえて毎日「ふりかえり」をするということに私はフォーカスをしました。きっかけは「ゆるふわスクラム輪読」の会で読んでいた「Fearless Change」で紹介されいていたアンネ・フランクの言葉でした。
誰もが毎晩眠りにつく前に、その日一日の出来事を思いかえし、なにが良くてなにが悪かったか、きちんと反省してみるならば、ひとはどれだけ崇高に、りっぱに生きられることでしょう。そうすれば、知らずしらずのうちに、あくる朝さっそく自分を向上させようと努めるようになるはずです。その努力を通じて、やがて多くのものを得られるだろうこと、それは言うまでもありません。これはだれでも実行できることです。費用もかかりませんし、じっさい、とてもためになります。
Frank, A., The Diary of a Young Girl, Bantom Books, 1967. (深町眞理子訳,アンネの日記 増補新訂版,文芸春秋,2003)
私の個人的な信条としてアジャイルを実践する上で最も効果的な力は「気づく力」であると信じています。その日起きたことをふりかえる時間があると否が応でもその日の出来事に思いを馳せることになります。忘れたいこともあるかもしれませんが「どうして忘れたいと思ったのか」に気づくことによって原因に遡ることができます。原因がわかれば対応できます。一見「ただふりかえりをする」ことと「改善すること」の間には飛躍があるように見えますがその実ふりかえりを通じて1日のうちに感じたさまざまなことの根っこにあったできごとに気づくことさえできれば良いことは反復し悪いことは回避するように行動変容が起きるはずです。
ふりかえりかた
集合
何を始めるにもまず場所と時間を決めて集まってもらう必要があります。当たり前ですが集合することに合意ができていなければふりかえりははじまりません。「ふりかえりをする」と思った時、すでに「ふりかえり」は始まっているのだッ!ちなみに私たちのチームでは毎日夕方5時からGatherというツールでふりかえりをしています。
しかし決めたからといって必ずしも時間通りに全員が来られるとは限りません。体調や家庭の都合で欠席しなければならないこともあれば作業に没頭して時間を忘れてしまうことだってあります、人間だもの。私も気づいたら時間になっていることに気づかずSlackでpingをもらったのは一度や二度のことではありません。そんな時に参加者にとって負担にならない呼びかけ方を決めておくとコミュニケーションがスムーズです。弊社ではかわいいキャラクターが壁から顔を出してこちらに手を振っている「:chira2:」という絵文字があったり、時間ぴったりにメンションしてくれるワークフローが走ったりしています。
それから個人的に気をつけていることとして、よほどのことでもない限り来ない理由がないくらい前向きで楽しくそれでいて「ふりかえる」という目的を果たせたら引きずらない場作りを意識しています。参加すればふっと少しの間仕事でこわばった力が抜けて、必要以上に時間を拘束されない、そんなファシリテーションを心がけています。そのために具体的にやっていることについては以後の各セクションでご紹介します。
チェックイン
集合したら速やかに、帰宅して愛鳥の元に駆け寄って「おかえり※」と話しかけるように速やかに、チェックインをします。チェックインとは、主にホラクラシーの会議で一人一言ずつ雑念を口にすることで「それまでにやっていたこと」と「これからやること」に区切りをつけるアイスブレイクの手法のことです。他人のチェックインに対してリアクションをしない(=雑念を増やさない)というレギュレーションがあるのでどんなにツッコミを入れたくなっても我慢を強いられるため、関西人にとっては厳しい試練でもあります。
※鳥は種によって飼い主の声真似をするので言って欲しいこと(=帰宅した時は「ただいま」ではなく「おかえり」)と話しかけます。
とはいえ、笑いが巻き起こればそれはそれでそれまでにやっていたことの雑念は晴れるので個人的にはOKではないかと思っています。笑いを狙ってなくても笑われることもありますし、笑う門には福来ると言いますし。笑えばいいと思うよ。とりあえず深く考えずにやってみましょう。
書き出す
チェックインが済んだらタイマーを三分にセットしてその日に起きたことを付箋に書いて貼っていきます。基本的に業務として取り組んだことを書いていきますがそれ以外のことを書くことも特に制限はしていません。ふりかえりを実施するのが出勤日なので必然的に仕事の話題がほとんどですが気になったニュースやMy near gear...の自慢、昨晩読んだ漫画や落書きなど様々なことを書いていきます。最近は同僚が鳥のイラストを描いてくれました、かわいいですね。鳥は最高です。
私たちはFigmaを使っていますがMiroでも同じことができますし工夫をすればNotionやesaなどでも近いことができると思います。記入するファイルは四半期ごとに新しいものに替えていますが、これも必要に応じて一ヶ月に縮めたり半年に伸ばしたりとやりやすい方法でできれば良いと思います。個人的には四半期がいい感じに溜まっていてかつあとから全体を見てふりかえりやすい量ではないかと思います。
書いたことの共有
次に一人ひとり書いたことを口に出していきます。この時に話している以外の人は付箋にステッカーを貼ると楽しいです(FDLっぽいかも)。ここは時間制限は設けず自由に話して良い時間にしています。リアクションもOK。ただ余計なことを喋りすぎないように普段は私が最初に共有を初めて比較的淡々と書いたことを読み上げるようにしています。
ファシリテーションする上で最も重要かつ難しいのがこのステップで、ファシリテーターはいかに「事実を確認」しつつも「気持ちよく共有」できる場を作るかが腕の見せ所であると感じています。たとえば「今日はAしかできませんでした」と言っているメンバーがいたとします。もしあなたがSlack上のやり取りでその人がBもやっていたことを知っているならば「あれ、Bもやってませんでした?全然もっとできてるじゃないですか!」と見落としていたことを教えてあげられますし、知らなくても「でも朝会で『今日はAをやる、Cはできればやります』って言ってませんでした?であればちゃんとできることを見積もれてるじゃないですか!」と安心できる言葉をかけたりします。
そうは言ってもその人のすべてのやり取りにキャッチアップしておいてあらゆることについて常に「いやあれもこれもやってたじゃないですか!」とやたらと指摘してしまうと「監視されているのではないか?」という恐怖を与えてしまうのでご法度です。こういったやり取りの中で心理的安全性を高めるためには日頃からメンバーの人となりを知る努力をすることが大事です。私がそれを特別上手にできているということはありませんがファシリテーションのふりかえり(自省)を繰り返していけばある程度は自ずとできるようになると思います。
困ったことの相談
共有が済んだら相談投げ込みタイムに移ります。ここでお互いに気軽に相談ができるようになるためにはチームの心理的安全性がある程度確保されている必要があります。特に最初のうちはこれといった相談は出ないものです。ですが私は無理に相談ごとをひねり出すよりもまずはそういう時間があるんだということを認識してもらい、より気さくに話せるようになったタイミングで相談が出るようになればいいと思っています。「あとで思いついたらテキストで送ってくださいね」と一言添えるだけでその後非同期で相談してもらえたりします。
より周りが相談事を持ち出しやすくなるようにファシリテーターが軽い相談を自分からするのも手だと思っています。例えば私が実際に相談した内容として「今週の金曜日はスクフェスに参加でいないので、誰か代理で一日だけふりかえりのファシリお願いできませんか?」や「明日の朝鳥たちを病院に連れて行かないといけなくてSlackの反応が鈍くなるので急ぎの話題は今日中にお願いできると嬉しいです!」などがあります。「ちょっとしたことでも相談していいんだ」と思ってもらえれば、「小さな相談に乗ってくれたから、もう少し大きい相談をしてもいいかな?」と少しずつ最初は話しにくいと感じていたことも話題に上がるようになっていきます。こちらもどの程度どうやって働きかけるべきかを判断できるようにメンバーをよく知っておく必要があります。
相談内容が共有されたらそれについて「どうするか」を決めます。せっかく相談をしてもそれがただ話を聞いただけで終わってしまうともう相談してもらえなくなってしまいます。その相談が受け取られて、解決のために行動してもらえる状況が作られなければ相談する意味が薄れてしまいます。とはいえはじめのうちはメンバーからチームに向けて相談があった際に自分からどう手を上げたらいいかわからないという人が多いです。なので共助の文化が形成されるまではファシリテーターが自ら受け取ってあげたり、メンバー同士が相談し合う空気に慣れてきたらそのトピックについて詳しい人にパスを出してみたりといったことが有効です。
ただしポイントとしてふりかえりの場では「どうするか」以上のことに時間を使うことは避けましょう。質問に回答するだけで解決するのであればその場で解決してしまっても良いですが、回答に対して更に議論が続きそうになったりそもそも解決に時間を要する類の相談はふりかえりとは別の時間で進めたほうがいいです。ふりかえりが個人の問題解決の場になってしまうと、予め合意形成をして集合するモブプロといったイベントとは異なり周囲のメンバーが意図せず時間を奪われてしまうので要注意です。
例えば「どうしても解決できないバグがある」と言っている人がいたとしましょう。そのバグの治し方を知っているならば「◯◯を試してみたらどうですか?」と回答してあげても良いでしょう。ただしそれで解決しなかった場合に再び次のふりかえりの時間まで悩み続けてしまうこともあるので、私であれば「このあと時間があったらペアプロしませんか?」と声をかけます。そうすることで時間が合うのであればふりかえりを解散したあとにペアプロをして、合わないのであれば非同期で会話をして解決したり後日時間の合うタイミングまで別の作業に取り組んでもらったりといった調整ができます。
チェックアウト
さて、相談事と「どうするか」が決まったらチェックアウトをします。やることやレギュレーションはチェックインと同様ですが今度は一緒にふりかえりをする時間に区切りをつけて切り替えるために実施します。2023年のスクラムフェス仙台でびばさんが「Don't just do ふりかえり。Be ふりかえり」と仰っていたようにたとえ区切りがあったとしても常にふりかえっている状態に至ることが理想だと思います。それと同時にふりかえりを通じて過去と向き合うというのはエネルギーが必要だとも思います。なので「チームの改善のために実施しているふりかえりは一旦ここで区切りだよ、来てくれてありがとう」という気持ちを込めてチェックアウトしています。
解散
ある意味ここからが「ふりかえりスト」の本番といえます。チームとして取り組んでいる仕事の進みは予定通りか?メンバーの心身の健康状態は問題なかったか?ふりかえりのファシリテーションはどうだった?今のやり方を改善する方法はないのか?そう、解散したその瞬間から次の「ふりかえり」は始まっているのさッ!
自らふりかえりのふりかえりを実践して改善を積み重ねて行くことで「ふりかえりを行うことそれ自体が改善に繋がるのかッ」という実感を抱いてもらいやすくなります。私はズボラなので毎日ちゃんとふりかえりのふりかえりができているわけでは全くありませんが、今回のようなアドベントカレンダーだったりアジャイルコミュニティのイベント登壇であったり色んな人と話している過程で無意識にふりかえるクセが少しずつついてきています。この記事も「どういう取り組みをしてきたか」をふりかえって文字として書き記しているうちに気がついたら6000文字を突破していました。
最後に
私は2023年に入ってから初めてちゃんと「ふりかえり」という行為と向き合い始めた正真正銘ふりかえり初心者なので今回のようなシンプルな構造のふりかえりやFun/Done/Learnのような人と人との間の摩擦が少ないふりかえり手法しかうまく活用できていません。それでも「とにかくやったことを確認する」という行為自体が改善を推し進めるきっかけになるということをこの半年間の経験から学ぶことができました。今回ご紹介した私たちが日頃実践しているシンプルなふりかえりパターンが誰かの第一歩になったのであればうれしいです。