思っているようにはいかなかった

naoya
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公開:2026/3/1

ぼくは15年くらい前に、一年くらいほとんど仕事もしないで過ごしたことがある。

急成長中の業界で働いていて、激務や対人関係など色々なことに疲れてしまって「一人になりたい」と思ったのがきっかけだった。

昔からたくさんの人と一緒にいるより、一人でいる方が楽だった。

休みの日は友人と外に遊びに行くのではなく、家に籠もって何かをするのが好きだった。何か作品を作ったりするのには一人で没頭する時間こそが重要で、みんなで話し合ったり群れたりそういうことは作品作りにおいてはむしろ邪魔なことだと思っていた。

「合議制では本当に良い物は作れない」。

それが信念でもあった。

だから、たくさんの人に囲まれて仕事をする、周りの人と協調しながら目標を目指すとかは、本来の自分の性質とはずれていて、それを続けていると心が磨り減っていく、そんな感覚があった。

それで仕事をやめて、一人になってみようと思った。

仕事をやめて自由な時間ができたら、あんなこともやってみたい、こんなこともやってみたい、こういうものを作ってみたい。日々そう思っていたから、一人になったらそういう創作意欲が沸いてきて、何かできるだろうと思っていた。

でも、全然そんな風にはならなかった。

はじめのうちは、激務から開放されたばかりだし、少し休もうみたいな気持ちでのんびり過ごしていた。

ちょっと簡単な物を作ったりもして、こういう感じで何か作っていけばいいかな、とか思っていた。

そうこうしているうちに一週間が経ち、二週間が経ち、1ヶ月が経った。

1ヶ月経っても、何か突き動かされて朝起きては何かを作っている・・・そんな自分にはなっていなかった。

おかしい。学生のときは、有り余る時間を活かして、暇さえあれば何かを作ったりしていた。あのときと同じように、内発的動機に頼って何かを作れると思っていた。

でもぜんぜん、そういうスイッチが入らない。

「今日はできなかったけど、明日がんばればいいさ」

それが明日が明後日になり、一週間後になり、一ヶ月後になり、半年後になっていった。

他人と話すことはめっきり減ってしまった。当たり前だ、一人でいて、会社にも行ってないんだから。

身体を動かすこともなくなった。通勤することもなくなったから、起きる時間も寝る時間にも特に制約はなかった。

基本一人で過ごしていて、遊びにもいっていないからお金はさほどは減らなかった。でも仕事をしてないから増えはしない。少しずつ、貯金は目減りしていった。

結局ほとんど何もできないまま、時間だけが過ぎていった。

人と話すこともなく、身体も動かさず、不規則な生活をしている自分だけがそこにいた。

だんだんと自分が社会から切断されている気持ちが強くなっていた。

貯金も減っていく。

何も生産的なこともしていない。

身体も動かしてないからどんどん太っていくし、疲れやすくなっていく。

こういう下降局面は自分のメンタルをも下げていく。メンタルが下がっていくと、そもそも生産的なことをしようという気にすらならない。悪循環だった。

一人になれば、時間があれば、誰にも邪魔されなければ、やりたいと思っていたことができるはず。こんな物を作りたいと思っていた意欲が沸いてくるはず、そう思っていたはずだった。でもそれは、一人になれない、時間がないからこそ生まれていた欲求だったことに気がついた。

自分は一人が好き、時間さえあれば創造的に過ごせる、何か生み出せる・・・ ぜんぶ、思い込みだった。

自分は至って社会的な生き物で、社会に生かされていたし、環境に影響を受けていたし、身体に支配されていたし、習慣こそが重要だった。

社会も環境も、習慣すらもリセットしてしまった結果、あると思っていた創作意欲は何一つ沸いてこなかった。

あれから 15年経って、今はどうだろうか。

平日は毎日会社にいって、仕事をしている。

その傍ら時間が空いたら身体を動かし、毎日何かしらプライベートでもプログラミングをしている。プログラミングをしたいというより、習慣としてやることにしている。

その結果、仕事でも、まあまあお客さんに喜んで貰えるものが作れているし、ときどきは自分が使いたいなと思っていたものを余暇で作れている。

案外、絶好調かもしれない。

規則正しい生活、運動、習慣。対人関係。それらが自分の生産性、創造性の源になっている。制約と規律、ある種の不自由さがモチベーションを生むことを身をもって知った。

若い頃は、そういうことに無自覚で、ただ周囲の環境がそれを与えてくれていた。

自分で自分に抱いていた淡く過剰な期待と根拠のない自信。

そういうものはほとんどが幻想であり、社会、環境、身体、習慣こそが自分を作る。

自分のことは自分はわかっている。そう思っていたし、そう思いたかった。でも全く思っているようにはいかなかった。