2021-02-02の別のブログの下書き(ブログとして世の中に公開することを恐れていたリスト)から本邦初公開。
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村田沙耶香さんの「コンビニ人間」という小説が好きだ。 ある時、それを読んだ母が「この主人公はかなり変わってるね」と言った。
私はそれに同意できなかった。コンビニ人間の主人公は自分みたいだと思ったから。
だって、私の一挙手一投足をすべてどこかにマニュアル化することができたら、どんなに気が楽になって、思考を放棄できて、社会に馴染めるだろうかと思ってたから。
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コミュニケーションに失敗したくなかった。
コミュニケーションに100%成功する方法を知りたかった。 失敗した時に、相手を傷つけたり迷惑をかけたり嫌がられるのが嫌だったから、可能な方法があるならできる限りそれを回避したかった。
仕事の人間関係で悩んでいたある時期、不意にあることを妄想したことがあった。
脳内にコミュニケーションのためのAIプログラムがインストールできて、それが全部私にコミュニケーションの方法を指示してくれたらいいのに、って。
「コミュニケーション.app」(「コミュニケーション.exe」かもしれない)をインストールした脳は、ハードウェア内蔵の、5つのインターフェース(五感)から情報を入手しそれをロギングする。
おもに使われるインターフェースは視覚聴覚。
それを使い周囲の人間(あるいはそれ以外のもの)が自分になにかアクションをすることを求めてきたら、この端末のログ(自分という人間固有のデータ)と、インターネットから取得した膨大な教師データ、つまり…他の人がどうやってコミュニケーションを取っていて、それが相手にどういう影響を与えたかというもの…から導き出された最適解が出力され、自身が何を口から発し、どのように行動をするべきかを提示してくれる。
それが可能なら、どんなに脳のリソースをコミュニケーションに悩むことに使わなくて済むだろうか。 どんなに心が平穏なままでいられるだろうか。
でもさすがにすべてそのアプリに依頼した結果を毎回そのままコミュニケーションのレスポンスとして返すだけだったら、自分という人間が介在する必然性、存在する必要性はなくなってしまうな、それは寂しいな、とは、ちょっとだけ思った。
なのでそのAIは、3つぐらい「正解のコミュニケーション」の候補を出してくれる。
その候補は、どれも相手を傷つける・相手に迷惑を掛ける可能性はゼロであって、どれを選んでも「間違い」になることはない。
ただ、何を選ぶかによってその後のルートが変わり、そこで自分の個性を出せるというだけだ。
そんなことができたら、こんな人間関係の悩みなんて全部なくなるのにと、ずっと妄想していた。
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ごく最近になって、リアルワールドは0と1だけではできていないということがやっと腹落ちした。
それまではどこかで、正義は正義、悪は悪、のように考えていたふしがあった。 実際の人間の世界には、限りなく100%に近いものや限りなく0%に近いものというのはあるが、完全なTrue/Falseというのは存在しない。
どの人にも様々な立場があって、視点が変われば見方が180度変わってしまうこともある。 100%も0%もないと思えたことで妙に力が抜けて、わたしは逆に少し生きるのが楽になったように感じる。
でも、コミュニケーションについては、「ああ、今日のあの人とのやり取り、失敗だったかな」って考えてしまうことがある。「こうすればうまく行ったのかな」って。
わたしはまだどこかで、コミュニケーションに対しては「正解」を求めている自分に気がついた。
それってつまり「100%」を探していたってことなんだろうか。 リアルワールドに100%はないって思ったはずなのに、まだコミュニケーションにはTrue/Falseを求めていたのか。
冷静に考えてみれば、コミュニケーションに100%正解し続ける、そのような人は存在しえない。 どのようにコミュニケーションが上手に見える人がいても、100%正解し続けているということはありえない。
そもそも「コミュニケーションに常に正解し続ける」って、一体どういう状況なんだろうか。 すべての人がそうである世界って、どんな世界なんだろうか。想像ができない。
私はAIになりたかった。でもよく考えてみれば、AIだって毎回100%の答えは出せない。 ましてや人間が100%の答えを常に出せないのは当然である。
みんなが正解だと思うコミュニケーションだけを続けることは不可能だ。
これからも私はコミュニケーションにたくさん失敗するだろう。
でも、この文章を書いたことで、自分が世の中に存在し得ないような無理なものを求めていたと自覚したことで、今やっと、少し吹っ切れた気がする。
コミュニケーション、どんどん失敗していこう。そんな自分を許容していこう。でも、昨日より今日、今日より明日、ちょっとずつだけ学んでいって、そして、誰かの教師データじゃなくて自分自身の経験をためて、ちょっとだけでも以前より今のほうが良いコミュニケーションができるように自分をアップデートしていきたい。