控えめなノックの音がした。コンコンとわたしの部屋を叩く音。2回ノックしたあと、小声でささやかれる。
「はいってもいーいー?」
扉を顔の半分だけ開けて、覗き込むように問われる。
「いいよ。」
「ごめんね、入るね。」
そう言いながら、なぜかウォークインクローゼットに身を潜めた。なにか探し物でもあるのかなと思いながら、気にも止めずに本を読んでいた。気にも止められないほど、静かにクローゼットに佇んでいた。
するとまもなく、父親がずんずんと二階にあがってくる足音がする。二階の部屋を物色して、それからわたしの部屋へやってきた。トンとノックして、顔を半分以上はいってくる。
「母親しらない?」
「しらない。」
一回ノックをすると同時に、はいっている無神経な父親には冷たくあしらい、とりあえず知らんぷりする。父親はしぶしぶ一階に下がって行った。
それから、一階をくまなく探す。そして、二階に上がって扉を開ける。豪邸ではないので、隠れる場所はない。だが、父親は自分の老いを心配して何度も探す。
最後に、わたしの部屋にきた。
父親は、一目散にウォークインクローゼットへ向かう。そこに、大声をあげて笑う、母親が登場した。引き笑いで息ができないほどに笑っていた。
普段は表情の変化が乏しく、感情の抑揚がない母が笑った。ギャップって得だよな、と思いながらも嬉しくなる自分がいた。
真面目に見えないところでも一生懸命なひとをみているような、心があたたかくなった。