2024.11.17

アルバイト先でお客さんに「『百年の孤独』って読みました？」と訊かれた。かなり浮かれてしまって「読みました！」と即答した挙句『『百年の孤独』を代わりに読む』まで勧めてしまった。興味のあるジャンルの話になると我を忘れて話してしまう癖は直したほうがいいと思う。

抗うつ剤を増やしたおかげか、しばらく抑うつの波に呑まれることはなかったのだけれども、ここ一週間強は身体に鬱の症状が出ていて、動けず大学を休んだり電車で気分をわるくしてホームで休んだりのくり返しだった。とにかく頭が痛かった。心因性の頭痛には鎮痛剤が効かないためにどうしようもなく首と額を冷やしつづけていた。第一に心配されるのが心の底から苦手なこと、第二に体調わるいアピールととられて不快に思われる可能性を考えてしまってなかなか体調のわるさをSNSにすら書けなくなってしまっていた。けれどもいい加減限界が来ていると思う。バイト中もなんども手に持ったものを落としそうになったし、ずっと手足は震えていた。このターンを抜けるのをじっと待つことしかできない。

　牛乳は飲みものであるよりも食べものだろうと思う。その証拠に果物の汁の類は直ぐに飽きはしても満腹するということはないのに対して牛乳は旨ければ飽きない代りに一時に楽める量に限度があり、いつか子犬を飼っていた時にすでに定量をやったことを忘れて又その分量だけやった所が食慾旺盛だから全部飲みはしたが小さな布袋のようになった腹をうえにして伸びてしまった。

吉田健一「北海道の牛乳」『吉田健一随筆集』（平凡社ライブラリー）p.196

我が家の牛乳はしばらく那須産のものだった。特段意味があるわけでもなく、最寄りのスーパーで一番安いのがたまたま那須産だったというだけのことだった。わたしはむかしからかなり牛乳が好きなほうで、それにもかかわらず背の順はずっと一番前だったから「あんなに牛乳飲んでるのにねえ」と言われ、牛乳を飲めば背は高くなる言説の生ける反証だった。いまでこそ標準身長までには伸びたものの、中学の中盤まではずっと前ならえで手を腰に当てさせらえる場所にいた。

以前認知行動療法を始めたばかりのころ、いつもおなじことをすこし変えてみようという課題があって、心理士さんに提案された牛乳の銘柄を変えてみるのに挑戦したことがある。いつも飲んでいるのよりすこし高価な明治おいしい牛乳を買って飲んだことをいまでもよく覚えている。必要以上に乳くさくこってり重たい気がした。これは牛乳ではないと思ったほどだった。牛乳が好きなわたしでも乳くささを感じるということは相当な乳力なのだろうと思いつつも、これが「おいしい」を謳った比較的高価な牛乳であるということはきっとこちらのほうが正解なのだろう。そう感じたのは慣れによるものなのか、単にわたしの好みの問題だったのかはよくわからなかったけれども、すくなくとも「おいしい牛乳」はおいしい牛乳ではないなあと思った記憶がある。そもそも「おいしい牛乳」を名乗る牛乳は勇気がありすぎると思う。それぞれに異なった味覚をぶち破っておいしいを強行突破をかましてゆく先輩はちょっとかっこいいまであると思う。