はじめての見学対応と、異世界を見たはなし

なつのしお
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 皆さんは、インターナショナルスクールというものに通う子どもたちのことをご存知だろうか。今回わたしは半ば偶然ながらも、幼い彼らと交流する機会を得た。恥ずかしながら、今日に至るまでわたしはインターナショナルスクールの存在そのものを知らなかった。インターナショナルスクールとは、簡単に言えば外国人の子どもたちや異文化交流を目的とした日本の子どもたちが通う、学校に準じた教育機関である。新たな気付きが多かった彼らとの交流の記録を、乱文でもいいからここに書き残しておこうと思う。

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 わたしの職場では、年に数日、教育機関の社会見学を受け入れている。2020年に始まったコロナ禍が終息の気配を見せており、今年度からは積極的に見学を受け入れていたようだ。見学希望団体が多く、抽選になっているという噂も聞いたことがある。非常にありがたいはなしである。

 数日前、今年度最後の見学対応があるので超勤で協力してもらえないか、という話がわたしのもとに届いた。かねてより見学対応に興味があったわたしは二つ返事でこれを快諾した。そして当日になったところで、今日来るのがインターナショナルスクールの子どもたちだと知らされた。幼稚園と同等らしく、正確にはインターナショナルプリスクールというものらしい。(調べた)

 現在のわたし自身は輸送の現場に携わる身であり、見学対応には支援要員としての参加となる。わたしにできることは、現場の安全を確保しつつ見学の進行をお手伝いすること。同じ支援要員の数名と協力して、見学いただく留置車両に電源を投入し、出入口と昇降台の間に踏板を設置。列車が動かないよう二重三重に措置をとり、いたずら防止措置まで施した上で彼らの到着を待った。

 やがて赤い帽子に制服の子どもたちと、私服の先生方、およそ20名がご来場された。一見すると普通の幼稚園の遠足と変わりない。が、子どもたちの挨拶が“Good morning! ”だったのでまず「Oh!」となってしまった。わたしは半ば引きつったような笑みを浮かべながら「ぐっもーにん!」と返す他なかった。先生方は子どもたちに英語で指示を出していた。「トイレに行きたい子は手を上げて」「手を繋いで2列に並んで」などの指示が聞き取れた。英語が当たり前の世界。自分の職場なのに別世界に来てしまったような感覚である。

 子どもたちをよく見ると、明らかに日本人的な顔立ちの子もいればアジア系、ラテン系やゲルマン系の子もいたりして皆それぞれの個性が強く見える。お名前も、本名なのか通称なのか、日本名のある子とない子、様々。国籍とかどうなってるんだろうと思ったが、恐らくこれも人によるのだろう。多様性の塊である。先生方はアジア系が主だったが、クラス担任と思われる先生はゲルマン系だった。

 整列が済んだところで、見学対応の責任者である係長が「おはようございまーす!」と子どもたちに呼びかけた。すると「「「おはよーございます!!」」」と元気なお返事。まぁなんてこと。全員バイリンガル以上か。そらそうよ。先生方もすごい。英語で話す先生と日本語で話す先生で会話が成立している。人間ってこんなことできるんだ。お互いがお互いを尊重しているようで、美しいなとさえ思った。

 日本人(でかい主語!)の英語力に関しては「聞く・読む・書く能力に対して話す能力が著しく低い」と言われることがある。が、もしもその低い話す能力を、聞き手の能力で補うことが可能だとしたら今よりはコミュニケーションが取りやすくなるかもしれない。英語で話しかけられた内容を解して日本語で返す人と、その日本語の内容を解して英語で返す人。もしかするとこれが通じるのは在住歴がそこそこある人くらいで、観光客などが相手ではそうもいかないのかもしれないが。

 閑話休題、日本語が普通に通じるとわかってだいぶ気が楽になったわたしは、車内で運転台の見学や、でんしゃクイズ大会をお手伝いした。クイズ大会で叫ぶほど盛り上がるあたりはその辺りの幼稚園児と変わらない。ちょっと違うのは、答えがわからないときに“I don't know...” とつぶやくなど、時折英語が飛び出すところ。彼らにとって学校の時間は英語を使う時間。日本語ばっかり使ってごめんね…という気持ちが少し湧いてしまった。

 しゃがんで目線を同じにすると、みんな目を輝かせて話しかけに来る。かわいい。腕や肩につかまられ、仕事で使うペンがキラキラしているとか、制服にある金色の刺繍がかっこいいとか、ドクターイエローがすきだとか、飛行機のほうがすきだとか、それぞれの想いを伝えてくれた。おしまいには、お約束のハイタッチ。見学時間の120分はあっという間に終わった。

 「運転士さんになりたい!」という子が半分くらいいてくれたのは嬉しかったが、恐らく将来は国境を越えて羽ばたく子どもたち。ほとんどの子はそうはならないのだろう。しかし、今日が彼らにとって思い出に残る一日になったのであれば、わたしとしては十分だ。楽しんでくれてありがとう。すこやかに、立派な大人になってね。

@natsunoshio
鉄道の仕事をしながらお絵描きをしたり作曲をしたりしている者です。 自我をまとめて綴りたくなったときに書くかもしれません。 一次創作Misskey.design↓ misskey.design/@Natsunoshio