帰る家がない

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僕は今就職と同時に実家を離れ、アパートで一人暮らしをしている。学生の頃は夢見ていた生活だ。家で好き勝手やってても怒られないし、プライバシーは守られてるし、だらしのない行動を咎める人もいない。何をやっても自由!

……そんな「誰かと同居する」ストレスから解放された気楽な生活だと思っていたんだけど、実際のところは、結構寂しい。特に家族が恋しい。両親と兄の4人で暮らしていたあの頃にどうしようもなく戻りたくなるときが、まあまあある。明かりのついた家のドアを開けたら、家族の「お帰り」が聞こえてきてほしい。じゃあ転職してそれを機に実家に帰ろうか、と思ったところで、

誰も居ないんです。実家。

兄は進学と同時に県外へ行き、そのままその地域に根を下ろしてしまった。両親は離婚し、母もまた県外へ行った。父親は実家に残って生活するつもりで、ガタが来ていた部分の補修工事を頼んだりしていたんだけど、そんな中で転勤が命じられて、中途半端に修繕された家を置いて県外で生活せざるを得なくなった。

 

そうして2階建ての一軒家に住む人間は居なくなった。現在は父と自分が長期休みの宿にする程度になっている。

以前、その長期休みの際、スケジュールの関係で父親より数日早く着き、入れ違いで帰ったことがある。聞き慣れていた鍵の開く音、ドアに取り付けられたキラキラと鳴る飾り。それを抜けた先に、誰も居ない真っ暗な広い空間があった。

荷物を置き、停止した設備を立ち上げ、一息ついても、何も音がしない。1人で暮らすには広すぎる空間に、ただ1人。家庭が恋しくなっている時期だったのもあり、結構精神的にきつかった。どうしようもなく寂しい。

仮に転職を機にここに再び住んでも、毎日これが待っているのか。そう考えると、狭い分、まだアパートのほうがマシな気がしてならなかった。

 

 

僕がかつて過ごしたあたたかい家庭は、家族は、どこへ行ってしまったんですか。あの日々は帰ってこないんですか。

問いかけても答えなんて来ない。そこには自分しか居ないのだから。