癖と犬

ホシガラス
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思考の癖に苦しむことはよくあって、しばしば打ちのめされたり落ち込んだりするが、それ以外の、身体的、と言っていいのか分からない癖がある。とにかく目についたものの名詞を口に出してしまう癖だ。

恐らくこれにはある程度、発声するに至る階層があって、一番多いのは犬だ。散歩している犬などを見つけると、おおよそ9割5分の確率で「あっ、犬!」と言ってしまう。猫はそこからやや下がり、鳥はまちまちなので、出会えた喜びや驚きの大きな順で声に出してしまうのかもしれない。友人を見かけた時は「あっ、人間!」とは言わないが、「あっ、○○!」と名前は言うので結構当たっているのではないかと思う。思考が挟まる間も無く反応できるのは不思議だが、認識と感情が近いところにあるのかもしれない。

一人でいる時には声に出さないよう、かなり気を付けているのだが(大きな独り言は人をびっくりさせてしまうので)、それでもぽろりと言ってしまう。その上、人と歩いている時にはこの癖が顕著に現れる。相手の話の腰を折る意図は全くないのだが、外で人と歩いていると妙に安心するせいか、注意力が格段に散漫になり、会話の最中でもすぐに「あっ、犬!」とぽろりとこぼれてしまう。……と、ここまで書いて、これは幼児が犬を見て「ワンワン!」と言うのとほとんど変わらないなと思った。幼児が物の名前を上げていくのは不思議だ。学習の過程なのか、それとも、世界に名指す言葉があることへの喜びを感じているのだろうか。

大人になっても人は犬を見かけると犬と言う。犬に出会う喜びは大きい。申し訳なさは多分にあるのだが、おそらく私はこれからも犬を見かける度に話の腰を折ってしまう。