影と本体

love-neniye
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公開:2024/7/2

しばしばある「実は昔から知られていた」みたいな話だと思ったけどやっぱ違って、それで思ったことの備忘として。

四元数と呼ばれる数について考えていて、そういえば「4つの平方数の和となる2つの数の積が再び4つの平方数の和になる」という式があったなあ、などということをふいに思い出した。これ、実質的に四元数の積とノルムの関係式なんですよね(たしかこういう性質を持つ代数を「合成代数」とか言ったりしたはず……)。

で、Wikipediaでオイラーの四平方恒等式を読んだりしていた。オイラーがこの恒等式について書いたのは1748年ころだという(ゴールドバッハ宛に書いた手紙)。この式をみてると、背後にあるなんらかの代数構造(四元数の積)にオイラーが気付いてたってこともあるんじゃないか? とも思ったりもする。まあ、そう思えるのはそれを自分がすでに知っているからだ、といわれるとそれまでなんだけど。

この恒等式、よくみてみると四元数の積としての形で書いているわけではない。二乗していることもあって符号の選び方にある程度任意性があるから、うまく積を定義できるかどうかは別なのかもしれない。そもそも積の構造について知っていたら、オイラーが四元数を発見していたことになるからね。

その後ハミルトンが四元数を発見したのが1843年10月16日ということなので、そこまで約100年の時間がかかっている。実際はそれより前の1819年にガウスが発見していたらしいから、もうちょっと短いとしても70年くらい。

まあ、こういうことを好き勝手にあれこれ言えるのは現代で得られている知識をもとにして過去を見ているからではある。ただ、はたして70年くらいの期間って長かったのか、それとも短かかったんだろうか、などとどうでもいいようなことを思ったりもする。

以前から知られていた事実が、背後にあるもっと大きな構造の一部だと気付くというのは、まさにプラトンのいう「洞窟の比喩」ではあるけれど、よくよく考えてみると影から決まる形は一意的に決まるとも限らない。ほんとは影から本体をもっと自由に想像してもいいんだよなあと思ったりもした。