ぼくはうさぎの粉を吸って、うさぎになったことがある。
うさぎの粉、それは多量に吸うとうさぎになってしまう危険な粉。
愛兎との別れが惜しくて、医療機関で愛兎の亡骸をうさぎの粉にしてもらった。
保険適用外。
この粉は量によって効果が変わる。
耳や尻尾が生える量、骨格が少し変わり全身に毛が生える量、骨格が大きく変わる量、完全に動物になる量。
ぼくは耳や尻尾が生える量だけ、うさぎの粉を摂取した。
粉の成分が人間の持つオルタナティブ(代替)遺伝子に作用して、身体に変化を与えるしい。
一時的に具合が悪くなって、診察室のベッドに横になった。
身体が沸騰したように熱い。
事前に受けた説明によれば、免疫系が常にうさぎの粉と戦い続けるため、粉を吸った後は平熱が1℃ほど上昇するらしい。
そして、免疫が弱ると身体のうさぎ化が一時的に進行する。
一時的というくらいだから、当然免疫が戻ればうさぎ化も退化するようだ。
見守っていた医者は独りごつような態度で、ベッドには近づかずに説明を始めた。
人間に戻る方法もあるけど、初めて粉を使うときよりも重篤な副作用が出る可能性が高いから、よく考えるように。
それから、戻ったら2度と粉は使えないからね。
このことは文章でも残しておくから、後で読んでおいて。
朦朧とした意識の中、ぼくはぼんやりと曖昧な返事をする。
医師は他の診察室へ出て行って、ぼくは看護師に支えられながら立ち上がった。
診察室から出されて、よろよろと処置室の一角にあるベッドに腰をかけると、解熱剤をもらった。
見た目に変化が出るのは早くて3時間後、完全に身体が変化するには1週間ほどかかるらしい。
熱に慣れるのも同じくらいかかるらしく、その間の解熱剤も処方すると言われた。
それから熱で丸1週間寝込んで、とても身体の変化を楽しめる状況じゃなかった。
これがぼくの、うさぎの粉の思い出。