とうとう工事が始まった。1番の悩みは、騒音かなと思っていたけれど、全然違った。今のところは、絶え間ないまなざしへのおそれと日を浴びられないことだ。
家の周りに足場が組まれ、工事の時間、つまり1日9時間くらい、週6で家の中が丸見えになる。工事が始まる前に身支度を終え、いつでもよそ行きでいないと、私は安心できないのだ。工事は朝型、私はうっかりすると2時くらいまで起きてしまうので、生活リズムがかみ合わない。
視線をカットするために、やむを得ず終日カーテンを引く。夜間に洗濯をして、朝方冷えて湿った洗濯物を取り込む。絶対日中に干した方が、ふっかふかで乾くし、あったかいのにな。どうしようもないけれど、晴れの日を無駄にした感じがして悔しい。
太陽を浴びられないのも厳しい。私の前世はふとんだと思っていて、太陽を浴びれば浴びるほど元気になるし、今の家も日当たりがスーパー良いから選んだ。足場を組んでメッシュの黒い布で覆われた我が家は、晴れの日でも曇りの日くらいの光量しか入らないし、ほんのり寒い。寒いとテキメンに心身の調子が悪くなるので、今年の冬は気合入れて生きないと不調に呑まれてしまいそうだ。
一番は、気を抜きたい時に、気を抜けないのが地味につらい。ごはんを食べている時も、誰かから見られるかもしれない。ミッフィーの着古したジャージを、誰かに見られるのも嫌だしなぁ。変な表情も迂闊にできないし、テレビやパソコンの画面も見えるし、ふいに口から出た歌も聞こえうる。きっと見ていないし、聞こえていないとは思うよ。でも、他人の綻びを仲間内で消費して退屈しのぎをするひとたちが、過去の自分の周りにはいたから、安心できない。百歩譲って職場で永久に工事してるならあきらめがつくけど、家の中でも毎日緊張しなきゃならないのが、本当に受け入れがたいんだよな。
音も、もちろん大きい。外で飛び交う、スタッフさん同士の大声に驚く。唐突のドリル音に、家の中で耳栓をする。背後から、頭上から、降ってくる金属音のたびに、そちらに注目する。後頭部で音が鳴り続けているときや、「危ないだろ!」と他のスタッフを指導する苛立った声に、緊張する。壁があっても、窓があっても、音がない方がずっと良い。
家賃払っているのに、家で作業をすること、もっといえば家の中で気を抜くのが贅沢になってしまった。時折コワーキングスペースに行ったり、図書館に行くのだけど、あんまり気が晴れない。ともだちにつぶやいたら、「金かかるの、すげぇ癪だな」って言われた。マジそれよ。ともだち、代弁してくれてありがとう。
ひとつだけよかったことがあった。それは、ベランダに鳥がやってこないことだ。なんだか気に入られてしまい、立ち寄ったり、ベランダで鳴いたり、落とし物があったりした。そもそも人間が偉そうに、どけ!と言うのもおかしな話だが、鳥の鳴き声が苦手なのでちょっと参っていた。物理的に我が家の軒先に止まれなくなったので、鳥との距離が出来たのはほっとした。