前回の続きです。
仕事において、と頭出しをしてはいるものの、おそらく仕事以外でも当てはまることが多いと思われる馬が合うか合わないか、について考えてみます。
1. お互いの期待値
まず仕事において合う合わないとは何なのか、これをハッキリさせる必要があります。色々な理由があるとは思うのですが、総じて共通しているのは「お互いの期待通りにお互いが動けていない」に尽きます。よく「期待値のすり合わせ」と称して目標設定をする会社がありますが、これは予め決めた通りに動いていれば期待とは違ったという認識違いをなるべく防ぐことができるだろうという狙いから目標設定をしているわけです。
普段仕事仲間と接する上でもこの期待値という要素が重要で、自分が何ができて何が出来ないか、進捗通りなのか遅れているのか、予めお互いが認識していることで期待はずれになるような事態をできるだけ防ぐことができます。
ですが、これらはあくまで表面的な取り決めに過ぎません。次第に人は、本音を言えばもっとこうしてほしいとか、成長するためにはもっとこれくらいは出来てほしい、といった欲が出てきてしまう・・・つまり、期待以上のことを相手に求めるようになってきます。この時の結果によって、徐々に期待通りではなくなり、溝が深まってくるようなケースもあります。
上記はあくまで一例ですが、このように普段自分たちが意識している以上にこの期待値という要素は人の無意識化に入り込んできて、お互いの溝を深めていきます。
2. 地力の差
期待値というものについてわかったかと思いますが、ではこの期待値が最も思った通りに働かないのはどういったケースなのかを考えます。
結論から言うとそれは地力の差になります。地力、すなわちその人が持ち合わせている能力、知識、素養といったものになります。学力に例えるなら偏差値がそれに当たります。
極端な話、犬が喋れないのに喋ることを期待するようなレベル感で、知識がないのに知識を要求するようなことを相手に期待したとしたら、それは期待通りにならないケースになるかと思います。極端な例とは言いましたが、実は仕事においてこのようなケースは結構あります。
特にそれが多く発生するのは採用時です。面接だけで判断し、いざ入社してみたら思ってたのと違っていた、出来ると言っていたことが出来ていなかったと言うことが非常に多くあります。また、昨今はリファラル採用が多いと思いますが、あの人は仕事ができるといって採用した人が実はできなかった、というケースもあります。リファラル採用はお友達採用であるケースも多いため、お友達だからと甘めに評価して入社してしまうといった事態も起こり得るからです。
このような事態を防ぐために、有名企業だと採用時に面接以外に試験を設けてスキルを測るケースが多いです。多様性の時代とはいうものの、結局のところその人自身の知識がどの程度あるのかを測ることが期待値をすり合わせる上では重要になってくるケースがある、ということになります。他にも、プレ入社のような形で予め副業で一緒に働いて互いの期待値を確かめるようなことをしている企業もあるようです。
このように、地力とはお互いの期待値をすり合わせる上で非常に重要な要素になってきます。学歴社会ではないのに学歴重視のように聞こえてくるかもしれませんが、現実として偏差値やIQに開きがありすぎると互いの会話が成り立たないといったことは有名な話かと思います。
他の例として身近なものでは、普段SNSで起こるトラブルを見ていていると特に実感できるかと思います。建設的な議論にはならずに相手を陰謀論者と決め立てたり、実はイーロンマスクはこれを狙ってやってたのか・・・みたいな話をしだす人がいます。何故このような反応をするのか、それは自分の理解の及ばない存在に対しては、自分の地力において最大限考えられるレベルの抵抗または想像をするために起こり得るのだろうと私は考えています。
例えば、私は子供のときに大人は何でも知っていて聖人君子ばかりだと思っていたのですが、実際に大人になるとそうではないということがわかりました。これも子供の時は地力がないので、大人を変に神格化してしまっていたのではないかと今では思います。
そして先ほどの例でいうと、陰謀論者の言うようなイーロンは裏でこういった狙いがあって綿密に計画を立ててこのような悪行を実行しているんだ!みたいなことは現実世界では実はほぼありません。大抵の大人は目の前のことに精一杯で先の先までのことは考えられていないことが殆どですし、自分の行動一つで世の中の人がどう動くのかまで計算して行動し切れるという人はごくわずかです。にもかかわらず、自分の理解が及ばないからといって、相手を諸悪の権化のように神格化してしまってそのようなことが容易にできる存在なのだと想像しているのだと思われます。
長くなりましたが、私はこれが極端に開いた地力の差によって起こり得る期待値のズレなのではないかと考えています。
3. 経験やスキルマップの分布が激しいIT業界の例
私はIT業界にいるのですが、IT業界のスキルマップの分布は非常に激しいです。モダンと呼ばれる最新技術からレガシーな枯れた技術まで、言語、ライブラリ、フレームワーク、ミドルウェア、それぞれにおいてピンからキリまであります。
私がこの業界にいて実感するのは、モダンとレガシーの差というのがまさに先述の地力の差に相当すると考えています。この溝は思っている以上に深くて、モダンな人とレガシーな人が会話をすると大体話が通じません。そして、そのような相手と仕事をすると大抵がこの期待値のズレを引き起こす結果になります。
他にも最近実際にあった話でいうと、入門書を読めばすぐに書けるようなJavaScriptを書いて、デザインができたら組み込んでほしいと副業依頼がきたことがあります。時間にすれば10分で終わるような内容です。ですが、デザインができたら組み込むという曖昧な作業内容があることに気づきます。
ここでどれくらいの説明時間を取られるかわからないし、何度手戻りがあるのかわからない。しまいには別の作業をついでに依頼されるといった事態が起きかねないことは経験上懸念されます。なので、バッファを考慮して1日くらいの見積もりで返すわけですが、相手はそれを高いと思ってしまうわけです。相手は経験が浅いのかJavaScriptを作る時間だけを見て考えてしまっている、というところなのだと考えられます。これも経験や地力の差からくる、期待値のズレが発生しているわけです。
この期待値のズレをIT業界で埋めるとしたら、自分の経験やスキルに見合った企業に入るのが最も期待値のズレをなくすのに適しています。もちろん、企業規模が大きければ大きいほどいろんな人がいるので完全になくすことはできませんが、数は減ります。私自身何度か転職していますが、自分のスキルにあった企業へ入ったことでこの期待値のズレは大分減らすことができました。スキルの基準値は高過ぎてもダメですし、低過ぎてもダメです。あくまで、自分に合ったところを探すのが期待値のズレを防ぐためのポイントとなることがわかります。
まとめ
というわけで、仕事において合う合わないというのは、地力の差であったり経験の差であったり、はたまた考え方の違いであったりとさまざまです。ただ共通しているのは人間は能力の近しい人たちで集まれば期待値のズレを可能な限り減らすことができるのではと考えられるところです。この考えをもとに、自分自身が今後目指すべき目標や、それを実現するべき場所を選ぶ上での基準とできれば良いのではないかなと思います。