今日は気分が良いな。いつもゾンビみたいに重心が無いような歩き方をするお前が凛々しく見える。…背中を抱いても良いだろうか。なんとなく今日は顔を埋めたくなる。
俺は、そんな気分だ。
「あれ、君化粧…しているのかい。」
「ん?ああ、野暮用で。」
「…どういう意味?」
粉の匂いか?よく分かったな。…そうだ。お前と2回目に出会った村総出のあの祝宴会でも化粧はしていなかった。勘の良い男だ。思考を巡らせて俺が今から言うもののあらゆるパターンを考えてるだろう。懲りないな。もっとパターンを増やしてやろうか。
「ほら、なんだ。例えば、男勝りな奴を女の顔にするのが好きなジジイはいるさ。」
「……つまり君はジジイに委ねたんだね!身体をさ!」
思ってたより短絡的だったな。
「笑えないな。」
「いやー、はは。」
「あんな奴に身を売るくらいなら、お前に5回は売ってるよ。」
バロミノが息を飲む音を感じる。俺の手を引き剥がして、顔を両手で挟む。厚いレンズでお前の目の奥が見えない。
「やめてくれよ。そういうの。
僕は弱いんだ。」
顔が近付く。髪が触れる。バロミノの眼鏡の音が鳴る。俺は咄嗟に胸を押し返した。
「冗談。そういうつもりで言ったんじゃない。」
俺がそう言うと、バロミノはくるっと距離をとってさっきまで俺が座っていた椅子に腰掛けた。毛布で全身を包んで目だけを出している。布が擦れる音がした。
「もちろん知ってるさ。君、機嫌が良いんだろ。僕を求めてたし、怒らないと思ってやった。」
何を言ってるんだコイツは。良かれと思って顔を掴む奴がいるか。ミノムシめ。距離が近いのも、気分が良いのもお前の方だ。