2023年11月17日の日記

ngtr
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 クリスマスが好きだ。正確には、クリスマスに向けて煌めき出す冬の街が好きだ。駅前広場や街路樹に灯るイルミネーション、色とりどりの宝石のようなクリスマスケーキの広告。花屋の軒先に並ぶ赤と白のポインセチア。町中に現れるサンタクロース。の格好をさせられるカーネル・サンダース。ハロウィンが終わり、街が黒と紫から赤と白と緑に変わる、この時期が私は一年で一番心が湧き立つ。

 私が最も好きな小説のひとつに、辻村深月の『子どもたちは夜と遊ぶ』がある。その中に木村浅葱という美青年が登場する。小説なので絵として描き出された外見があるわけではないのだが、文章によって描き出される彼の姿の全てが色っぽくうつくしい。彼の美青年っぷりは私の拙い文章で説明するよりも、実際に上記の小説を読んでもらうのが手っ取り早いと思うので、ここでは割愛する。ここに引用したいのは、彼がクリスマスについて語る言葉だ。

『なぁ、何で世の中はこんなにクリスマスを盛大に祝うんだと思う?』

『このイベントがないと、この季節は暗くてやばい。とてもじゃないが、人はそれを乗り越えられない。この季節を明るくするためには必要なんだ』

 クリスマスを前に湧く街の中にいると、私はいつもこの言葉をそうだよなあと思い返す。ハロウィンが終わって大晦日まで何にもないとしたら、街は冬至に向かってどんどん暗く、灰色に落ちていくだけなのかもしれない。ちなみに木村浅葱の場合は幼少期に虐待を受けていて、母親にクリスマス・イヴの夜にベランダに放り出された悲しみと孤独を、近所の家のイルミネーションの灯りを見て癒したというエピソードから出てきた言葉なので、私の呑気な感想とは違う次元の深刻さを伴っているのだが。

 今年は、少し広い家に引っ越したし、こどもが生まれたこともあり、イケアで小さなツリーとオーナメントを買った。ほんとうはホーム・アローンの家にあるような巨大なモミの気が欲しかったりするのだけど、高いし、家は賃貸だし、現実なかなか難しい。来週くらいには、オーナメントをつけてリビングに飾りたいと思う。小さな息子にはまだなんのこっちゃだろうし、ポメの格好のおもちゃにされること必至ではあるのだけれど、これは、ただ私のために。だんだん厳しくなる寒さと長くなっていく夜の季節、そしてだんだん本格化する息子の夜泣きと戦う日々を、その煌めきで明るく照らして、乗り越えていけるように。