年末に大掃除をしていたら、洗面台の三面鏡の中に、小さなジップロックがふたつあった。
中には髪の毛の束が入っていて、子供たちがそれを見て「ギャア!」と悲鳴をあげた。
わたしはマジックで書かれた日付を見て呟く。
「これ、あんたたちの初めて切った髪だ」
赤ちゃんの髪の毛を小筆にするサービスがあって、生まれてこのかた一度もはさみを入れたことのない子供の髪をひと束散髪した。
チョキンと切ってジップロックに入れたまま、引っ越して新しい洗面台になったにもかかわらず、ずっと忘れていた。
しかも二人分。
その当時のわたしが忙しくて髪の毛を持って注文することすら出来なかったのか、切っただけで満足したのかわからない。
くるんと大きく癖のある髪の毛が束になっている。やわらかくて細い髪。
ひとりは頭のてっぺんだけ異様に伸びてきた前髪で、もうひとりはなかなか伸びない襟足の毛を切ったことだけ思い出した。
筆にするにはあまりにも可愛くて、かと言ってジップロックから取り出して捨てるのも憚られる。
「どうするの? 捨てるの?」
子供たちにそう聞かれたわたしは、掃除を終えて、ジップロックを元の三面鏡の中に戻した。
幼いままの髪の毛は、もうしばらくここにいてもらうことになりそう。