私は誰かを名前で呼ぶことをあんまりしない気がする。意図的に呼ぶことやあだ名だったら呼ぶけれど、基本的に皆様、君、貴方などを使う。
これにもやはり私の美学が込められていて、相手をいつも敬っていたい。丁寧に扱われて嫌な人はきっといないであろうという思考から今に至っている。
大勢の人の前でお話をさせていただく機会も多かったし、敬語、尊敬語あたりの丁寧語は流暢に出てくる。でも話すのがとても苦手なのは、自分の伝えたいこととの距離が一番限りなく近い言葉を探すのに時間がかかること、何よりピッタリの言葉を私が持っていないことがあるからだと思う。すこしでもちくちくする言葉なんて使いたくないし、まして相手を傷つけるような言葉なんて持ち合わせていなくていい。自分が素敵だと、綺麗だと思う言葉だけを私はポケットに入れておけばいいと思っている。
皆様、貴方は結構誰にでも使うが、君、だけは違う。
わたしが誰かに君、とつかうのはとても大事に思っている人に向けた言葉だけだ。伝わって欲しいと、私の心を渡す時につかう言葉だ。
君、と呼ぶ人は今のところ3人くらいしか思い浮かばない、それくらい大切にしてきた言葉である。それをその子たちは知らないが、それでいいと思う。それがいいと思う。私の愛なんて無視してくれればいい、世の中にはもらった愛をもらった分だけ返そうとしてくれる、そんな人がいる。そうして欲しくて言葉をかけているわけではないからだ。
すこしばかり意味は違うが、恩返しというよく聞く言葉とはまた別に恩送り、という言葉がある。もらった恩を次の人にまた送るという意味の言葉である。私はこの言葉が好きだ。私は強欲だから、恩返しをした上で恩送りをしたいとも思ってしまう。じんわりじんわりと温かい色の絵の具が広がっていくように、かけがえのない私の心も少しずつ少しずつ光を灯して誰かに届けることができたらいいなと。そんな願いを抱き、時を生きる。