乗った地下鉄にアナウンスがあった。「次の区間、教習のため、徐行運転を行います。お急ぎのところ…」いたるところで、春を目前にしているなと感じる。
四季の中で春が1番嫌いだ。
乾いたアスファルトを、おろしたての革靴がいくつもジリジリ踏んでいく姿が恨めしい。しかしこれは決して他人の変化を鬱陶しく思っているわけではなくて、変わりゆくものの音が大きくなり、それに急かされているような気にさせられるのが嫌なのだ。私自身のペースを乱される心地が、どうにも居心地悪くさせられる。
それとは別に、他人の門出や、新たな挑戦を心から応援したいと思える心がある。同居し得ない気持ちのようだが、どちらも虚なく思う。だからこの車両を動かす新人車掌には、嘘偽りなく前向きさで、いつもなら体感することのないスピードに、嫌な気ひとつなく身を任せている。がんばれ。
春のことは、きっと今年も嫌いなまま。移り行く人の流れに否応なく溺れている。それでも私は、変わりゆく人のむきだしになって、すぐに傷ついてしまう心が、それでもまた明日頑張ろうとする姿を応援している。