ここ2、3年、まともに小説を読んでいない。嫌いになったわけでも、億劫になっているわけでもない。むしろ物語への執心はここ数年で増したと思われる。
読んでいない理由は簡単で、私の読書は、私の日常に支障をきたすのだ。私はひとたび物語の世界に入ってしまうと、自力で抜け出すのが難しい。周りの音や声も聞こえず、時間感覚もなくなり、それは読み終わるまで続く。しかし私がいくら自分より外のことを忘れようとも、世界は普通に動いていて、また、私も私で、私の外にある世界を動かさなければならない。そこのソリがどうも合わないのだ。
たとえば1時間の休憩時間を与えられたとして、そこで本を読み始めてしまえば、私は休み時間の概念から外れたところで生きてしまうことになる。人からの問いかけが聞こえなくなり、簡単に時間を無視してしまう。社会的な生き物、人間として生きるからには、物語にかまけて現実に支障をきたしてはいけない。
そんな私が安心して本を読める空間がある。飛行機内だ。飛行機は搭乗から離陸までがクリアに区切られていて、やることが定められていない。そのために、Kindleにはダウンロード済みのものが数冊。移動の時は、紙の本をいくつも持っていくより、ebookが良い。紙の本とebookは共存していって欲しいなと思う。
こうして、私は読書好きなのにも関わらず、本を読む時間は一年にそう多くなくなってしまった。いつか、今ほど社会生活に重きを置かなくても生きていけるようになったときには、自分の中でその比重を傾けられたらと思う。
とあるpodcasterが、読者のためだけに旅館に閉じ籠ることを定期的にしていると聞いて、私もいつか、そういう時間の使い方をしたいと思う。時間の使い方を、好きに、飾らず、賢くしたい。これは最近、人生の指標にしたい心がけのひとつだ。いつか己の豊かさで、春のあたたかさを抵抗なく享受できるように。