大学病院への定期通院が昨日で終わった。自分の中でやっと何かが一区切りついたので、文章に残しておこうと思う。
一昨年の5月、妊娠19週目のこと、かかりつけのクリニックで精密エコーを受けているとき、息子の脳梁の形成に問題があることが分かった。「本来ならこの時期は2mm程度できていないといけない脳梁が見えない」と先生に言われ、その場で胎児の脳に詳しいクリフム出生前診断クリニックへの紹介状をいただいた。
クリフムの院長・夫先生は胎児の脳の専門家で、世界的にも権威ある方だそうだ。そんな夫先生に診ていただいたところ、息子に脳梁はあったのだが、今まで何百人も見てきた夫先生が「こんな脳梁は見たことがない」と言った。息子の脳梁は左右非対称で短くいびつに形成されていた。 そこから毎週クリフムに通い、エコーだけでなく様々な検査を受けた。遺伝子の検査、脳幹を見るための胎児MRI。だけど何の問題も見つからないし、エコーでも脳梁以外の形成は夫先生曰く「問題ない、むしろ優秀」とのことだった。
前例がないので、この形成不全がどのような影響をもたらすかわからない状況だった。「もしかしたら発達に問題が出るかもしれない」と言われたので、息子が困らないようにできることは全てやろうと夫婦で決めた。 分娩先も既に予約していたのだが、夫先生の勧めもあり大学病院へ変更した。出産時に異常があってもすぐ対応できるし、産後も小児科へ繋げてくれるとのことだった。 クリフムにはエコーが撮れるギリギリの30週目まで通ったが、結局最後まで脳梁の形成は改善されなかった。
出産時は息子がなかなか下りてきてくれず、先生がお腹に乗ったりしてくれたのだが、「これ以上やると脳梁に影響があるかもしれないし、吸引も脳梁のことを考えると使えないから帝王切開にしましょう」と言われて緊急帝王切開になった。 そして息子は生後5日でMRIを受けたのだが、やはり「脳梁形成に問題があり、その他は異常なし」という結果だった。
そこから定期的に大学病院の小児科に通い、息子の発達状況を診てもらっていた。何かあれば療育に繋げてもらう予定だったが、昨日ついに「生まれて1年半発達を見続けましたが、遅れなどが感じられないので卒業にしましょう。もうあまり心配しなくて大丈夫だと思いますよ」と言われたのだった。その瞬間、文字通りスッと肩の荷が降りたのを感じた。
およそ2年間、ほぼ毎日息子の脳梁のことを考えていた。 妊娠中は病院に行く回数が他の人より多くて肉体も精神もしんどく、大学病院に行くたびに「ハイリスク胎児(脳梁形成不全)」と書かれた紙を渡されて胸が痛んだ。少しでも正常に近づきますようにと毎日神頼みもした。産後も息子に何かあればすぐ「脳梁形成不全」の文字列が頭によぎり、一時期は検索魔になっていた。 息子が1歳になる頃には発達は問題なさそうだと思い始めたが、それでも心配は尽きなかった。 だけど、これからはもう考えなくてもいい。変な話だけど「やっと出産が終わった」と思った。
夫先生や大学病院の先生の話では、脳梁にどのような働きがあるのか全ては分かっていないとのことだった。 左右の脳を繋げる役割をしていると見られているが、夫先生曰く「脳の様々な部位の中で唯一脳梁だけは代替がきく」そうで、脳梁がなければ大脳(だったと思う)がその役割を担うらしい。実際に脳梁が全くないことに本人が気づかず生活をしていて、たまたま検査を受けて判明するケースもあるそうだ。息子の場合は偶然見つかっただけに過ぎず、もしかしたら息子のような脳梁を持つ人は世の中にたくさんいるのかもしれない。
息子がお腹にいた頃のエコー写真や検査結果、その後の発達については研究で利用いただくことになっている。脳梁がいびつな胎児の例として既に出ていそうな気がするので、あとは「その後の発達には異常がなかった」という情報も付加されてほしい。そしてそれが息子と同じような脳梁を持つ赤ちゃんやご家族の希望になればと思う。
ちなみに息子はまだ1歳半なので、この先やはり何かしらのサポートが必要になる可能性もある。が、2年前から続いた検査は一旦区切りがついたのだった。