痴漢撲滅のポスターに描かれた5人の男女が、軽蔑した眼差しをこちらに投げかけている。なんと言っているかは分からないが、イガイガの吹き出しでもって罵声をぶつけている男性もいる。メガネの女性は心底落胆した表情を浮かべている。
ポスターの意図は当たり前に汲み取れるが、ぼおっと眺めているとどこか自分が叱られているような気になってくる。
「きちんと働いたらどうなんだ!」
「親に迷惑を掛けるなんて、信じらんない」
「…最低」
口々に非難を浴びせてくる。引け目を感じながら歩く日は、呼応するように町中が僕を叱り飛ばす。
真っ当な社会にいない引け目を打ち破る戦いだと思って始めたことだけれども、今は戦いを続けてはいけない理由がどこか自分の内側にある気がして、身動きが取れなくなってしまう。
息が苦しくなるのを感じながらいそいそと改札を出て、オフィスまで急いだ。無性に単純作業に没頭したかった。
「損な人ですね」
菅田さんは言った。呆れているように見えたし、ニヤニヤ楽しんでいるようにも見えた。
答えを知っているなら、なんでも良いから教えて欲しい。もっと言うと、教えずして、それとなく気づかせて欲しい。
ただ無心で紙を折ることで生まれた4,300円を受け取った。帰り道は歩くことにした。