2023年紀伊半島旅

日本で一番大きな半島は紀伊半島である。子供が日本地図を描く際にも、紀伊半島は必ず描かれるほど巨大な半島だ。しかし、半島の定義は曖昧で、どこを根っことするかで定義が揺れることがある。そのため、「日本で一番大きな半島らしい」という言い方をしている。

さて、2023年9月、その紀伊半島をぐるりと周るバイク旅に出た。旅と言っても宿泊は前提にしていない、いわゆる日帰り旅だ。

大阪から紀伊半島、つまり和歌山に行くための一般的なルートは阪和道だ。近畿道から阪和道を抜ければ、そこはもう紀伊半島だ。しかし、この旅では異なるルートを選ぶことにした。過去に和歌山や白浜方面は既に何度か走っているため、一日しかない今回は行ったことのない紀伊半島の東側をメインとしたかった。そこで選んだのは、奈良を一気に抜けて三重に入り、紀伊半島を時計回りに走るルートだった。

朝早くに近畿道に乗り、松原JCTへ。そこから西名阪自動車道に入って奈良・天理方面へ。名阪国道は一般国道(25号線)だが、実質的には高速道路のようなもので、一気に三重県まで抜けることができる。しかも無料。無料道路は大事だ。

徳川家康も駆け抜けたであろう伊賀越えを果たし、三重県の亀山・関で今度は伊勢道に乗り換える。伊勢道からは有料の高速道路だ。何日もかける旅行であれば、伊勢神宮方面に観光に行くのも良いが、今回は時間が足りないため、勢和多気ICで降りた。ガソリンがピンチになったためだ。IC近くで給油し、付近の喫茶店のような店で昼食をとった。確かハンバーグだったはずだ。地元の小さな個人店で食事をするのもまた一興だと最近感じる。

勢和多気からは伊勢道から紀勢道という高速道路に切り替わる。そのまま奥伊勢と呼ばれる山間を抜け、尾鷲・熊野方面へと向かう。紀伊半島を周るというからには鳥羽・志摩の海沿いを走るのが筋だろうが、ここは日帰り旅なのでご容赦願いたい。

紀勢道は熊野大泊ICで終点を迎える。ここで紀伊半島は高速道路で西と東が繋がっていないことを知る。ここからは下道となる。

ICを出てすぐ、鬼ヶ城というスポットが目に入り、立ち寄ることにした。戦国時代に山城があったが、城跡を見るというよりは、名勝に指定されている岩壁を見る場所だ。

見れる場所は遊歩道の一部分だけであった。おそらく崖崩れの心配があるのだろう。それでも波が崖に渦巻いて勢いよくぶつかる様子は見られた。立ち入り禁止の遊歩道を遠くから見ると、崖の真ん中を頼りない階段で繋げている険しい道であった。これを悠々と進めるのはスーパーマリオくらいだろう

鬼ヶ城の売店で少し休憩をした後、海沿いの国道42号を走っていく。海沿いと言っても、防風林が植えられていて海は見えなかった。次第に海が見えてきた頃には少しずつ栄えだし、新宮市の市街地に入った。

新宮は和歌山の地方都市である。伊勢道以来、三重県をずっと走ってきたが、ここにきて和歌山県に突入した。大阪から和歌山に入るよりも何だか不思議と感慨深いものがある。

ちなみに新宮は、桃鉄ではよく聞く名前だが、あまりどういう街かは知らない。大きくも小さくもない、良い感じにこじんまりとした町だった。通過しただけだったけど。

やがて、国道42号は自動車専用道路へと変わり、高速道路のようにスピードの出せる道になる。確か無料だったはずだ。何度も言うが、無料道路は大事だ。

そして、バイクは那智勝浦に到着する。関西にいると那智勝浦という地名はやけによく聞くが、実際に訪れたのは今回が初めてだ。名前からして、那智という町と勝浦という町がくっついたのだろうと調べてみると、その通りだった。山の方が那智で、海の方が勝浦。そして、その山の方には有名な「那智の滝」がある。もちろん、この旅のチェックポイントの一つだ。

海沿いの国道からくねくねした山道を登り、4kmほど走ると熊野那智大社が見えてくる。この神社の中に那智の滝がある。しかし、「中に入ると時間が無くなりそう」という懸念が生じ、神社の横から滝の姿を少し拝めたため、記念撮影だけして再び海側へ戻ることにした。いつか、ここにちゃんと滝だけを見に来る日を願って。

再び国道42号の自動車専用道路に乗り、紀伊半島の南端を目指す。中途半端なところで自動車専用道路は終わり、そこからは海沿いの道をひたすらに走っていく。この頃にはもう夕暮れが近づいていた。

なかなかの時間がかかったが、本州最南端の町・和歌山県串本町に到着した。

「くしもと橋杭岩」という道の駅に辿り着いて休憩をした。先ほどの鬼ヶ城をはじめとして、プレートの隆起と潮流が激しくぶつかったことが起因して、紀伊半島の南東あたりは奇岩が沢山見受けられるらしい。そのうちの一つが串本の橋杭岩だ。その名の通り、まるで誰かが橋を渡すためにハンマーで杭を打ったような岩が並んでいる。自然は本当に面白い作用で美しい光景を見せてくれるものだ。

この道の駅を起点として串本の市街地が徐々に始まる。温泉地としても名を馳せる串本。本来ならここを宿泊地として、温泉にでも浸かりたいところだが、日帰り旅行なので、ここはひたすら移動に徹する。

そして、旅の最後のチェックポイント「潮岬」に辿り着く。潮岬は本州最南端の地だ。関西での天気予報でも聞き馴染みがある。南から台風が接近すると、必ず台風は潮岬を上陸する。

散散歩をしている人がまばらにいるくらいで、人気はあまりなかった。海沿いの岬なので風は強いが、夏過ぎなので決して寒くはない。本州最南端の自動販売機で飲み物を買い、本州最南端で散歩をしている飼い犬を眺めながら、本州最南端の記念石碑を写真に収めてこの場を去った。

ちなみに、潮岬からは太平洋が広がっており、その先はパプアニューギニアまで陸地がないそうだ。パプアニューギニアといえば南半球である。言ってしまえば、家からたった半日で北半球の最南端に立ったと言っても過言ではないだろう。いや、過言であった。すまん

さて、目的を果たしたのであとは帰路に着くだけだ。串本には高速道路は存在しない。まだ日没はしていなかったが、そろそろ暗くなりそうな時間。景色も楽しめなくなるので、早々に帰りたかったが、下道を選ばざるを得なかった。

すさみ町という町まで行くと紀勢道の入り口があった。このあたり記憶が曖昧だが、どこからかは高速道路に乗った気がする。(もしかすると、有田町くらいまでは下道だったかもしれない)

紀勢道といえば、お昼ご飯を食べた多気から走った道路だ。しかし、南の方では繋がってはいない。需要の問題だろうか。いつしか紀伊半島がぐるっと高速道路で繋がればいいなと思う。京奈和自動車道も含め、和歌山はまだまだ道路の未開地区が多すぎる。

さて、南から田辺・御坊・白浜と北上し、和歌山に入る頃にはだいぶ時間が遅くなっていた。晩御飯は何を食べたかは覚えていないが、和歌山のどこかでご飯を食べた気がする。(なぜか記憶がない)

大阪に戻ってきた頃には、家を出てから15時間ほど経っていたと思う。しかし、たった一日でこれだけの距離を走り切れたのだから、バイクというのは本当に楽しい移動手段だ。

紀伊半島をただ移動するだけになってしまったので、那智の滝も含め、伊勢志摩方面や白浜方面もゆっくりと巡りたいところである。

では、また別のバイク旅の思い出にて。