10年ほど前に祖父が亡くなり、一人暮らししていた祖母も2022年末に亡くなった。実家が空き家になるのは大変だからと、伯父さん夫婦が祖父の家に引っ越してきたのが昨年になる。
祖父が亡くなってから、古切手とか切符とかこまごましたものは古物商に売ってしまったらしい。だが家具や調度品は結構そのまま残っている。
ずっと気がかりだったのもあり、祖母が亡くなったあとに、私は両親に調度品の中のひとつであるサンゴの置物をもらいたいと相談した。これはお茶の間の食器棚の上にずっと飾られていたもので、多分私が生まれる前からあったんじゃないだろうか。公務員をしていた祖父が県の土木課に勤めていた知り合いからもらったものだというそのサンゴは、祖父が特注したというガラスケースに収められていて、かろうじて両手で抱えられるほどの大きさがある。サンゴの色は白くて花びらのような繊細な骨格が見られる。小さいころからこれを眺めるのが好きだった。
去年の9月に帰省した時に、伯父から持って帰ってよいと言われ、誰も動かしたことのなかったガラスケースを慎重に食器棚から下ろし、掃除をしてプチプチに包み、さらに段ボールで保護してから自分の軽自動車の荷台に乗せて帰ってきた。食器棚から下ろす手伝いを弟に頼んだら、「サンゴなんてあったことも気づかなかった」と言っていたから、まあ私がもらっても誰も文句は言わないだろう。
今このサイトのアイコンにしてるのはこの祖父の形見です。書斎の出窓のところに置いて、作業の合間に時々眺めている。調べてみたら、ウミバラというサンゴの中でも割とありふれた種類ではあるらしい。長崎の南の海の底からやってきたそれは、書斎の中で異様な存在感を放っている。