ここは僕のもの

ノ!
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いつも絶対降りない駅で下車する。荷物をコインロッカーに詰めていつもの私からは想像もつかないほど身軽だ。ここからどう進めばいいかわからないけど、とりあえず真っ直ぐだろう。極限まで身軽にしたせいで、愛用の有線イヤホンをリュックから取り出すことを忘れてしまった。道のりは長いのに。まあいいや。きっと、事前情報ない分感動は大きいはず。そう言い聞かせて、道なりに進む。こんなところ歩いたことないから、周りの風景が物珍しく、夕陽がキラキラしている。人通りも、車通りも少なくて若干帰り道が心配になってきたけど、どうせハイになるしどうでもいい。待ち合わせはマックだったはず。想像ではもう着くはずなのに、まだまだ半分ぐらい。遠すぎ。最寄りのコインロッカーを撤去した行政か駅かを恨みながら、これも思い出と思えるのは非日常だから。漏れ聞こえる音を通り過ぎて、黄色い看板がやっと見えてきた。何食べようかな、ガッツリ食べない方がいいかな。そんなことを考えつつ入店すると、色違いのTシャツが見えてくる。結局スパチキを食べた。なんだかんだいつも通りが安心する。腹ごしらえを終えて、どんな曲やるんだろうね、緊張するね、ネタバレ禁止だからね、そんなことを言い合いながらグッと冷えてきた夜空の下で待機させられる。敷地に入ってくださいと何度も注意されている人を横目で見てたら、同じ授業を取っている人だった。いつもと違う髪型で、いつもと違うファッションを纏っているけど今は何も怖くない。この先に起こることの期待ばかり浮かんで、明日のことも他人のこともどうでもいい。狭くて暗くて人がいっぱいでクソうるさいけど、私はバンドマンが言葉と音を届けてくれるこの場所が大好きだ。だってこう思えるから。