久々に見た夢

nullhiko
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お酒を飲んだ日の夜は眠りが浅くなり、普段ほとんど見ない夢を見る。今日は何度か目覚めて、その度に違う夢を見た。そのうちの二つを覚えている。


一つ、自分は何らかの、それもアンダーグラウンドな組織に属していて、ボス、その右腕に次いでそれなりの立ち位置にいるようだった。ボスの息子がどうも組織に反する動きをしたようで、それが明るみになった。組織の維持や統制のためにも、自分とボスの右腕が処分の検討を進言する。ボスは自身で手を打つという。

場面が変わって、小さな部屋にいる。我々にボスの息子が背を向ける。何も言うことはないらしい。ボスの右腕も、首を横に振って黙っている。ボスが自分の顔を見て、懐の銃を取り出す…のだが、あまりにも目を合わせたままこちらに身体を向けて銃を取り出すものだから、反射的に自分も懐から銃を出してしまう。ボスの表情が一瞬驚きに揺れる。右腕は背を向けたままだ。

自分は反省する。何を言ったかは覚えていない。ボスに銃を向けようとするなんて。銃をしまい、右腕と同じように、ボスとボスの息子に背を向ける。自分は口出しをしません、という意味を込め、すこし目を瞑る。ボスの銃が息子に向けられる気配がある。いよいよか。ボスが小さく息をつく。瞬間、自分に銃が向いたような気がして、ボスを振り向く。トカレフだろうか、そのライフリングがよく見える。焦る間もなく首の右側に衝撃が走る。続けて眉間のすぐ下すこし右を撃ち抜かれる。自分は…………


一つ、気付くとひどく疲れている。どうやら長い労働を終えたあとらしい。数日前会社を出たようなところから今までの記憶が抜け落ちている。不安でたまらない。労働の間に仲良くなったのだろうか、薄暗い中、仲間数人と少し話しながらレンガが見える広場に立っている。風が通る割に妙に砂っぽい。他にも労働者がいる。その数は多く、数十人はいるように見える。

そうだ、帰らねばならない。返却されたであろうスマホを取り出し、現在地を確認する。見慣れない地図のアプリがGPSを元に自身の位置を出そうとするが、港湾のあたりを西へ東へと落ち着かない。役に立たないらしい。

誰かが歩き出す。帰れるのだろうか。仲間と付いてゆく。が、行き着いた先は埠頭のような公園で行き止まりだった。上には巨大な橋がかかり、夜にわずかな光を与えている。砂なのか、もやなのか、はっきりとは見えない。

近くに大きな船が停泊している。船には大きな歯車と丸ノコの刃が付いている。なんの船だろうか、少なくとも見たことのないような大きさの丸ノコだ。突如として大きな汽笛が鳴り響き、皆一様に驚く。ほどなくして誰かが引き返す。巡礼者のように数列になって後を追う。必ず時計回りで折り返す。

バスだ。古いような、それでいて内装だけ新しいようなバスが数台停まっている。行き先を見ると、よく知っているがそこまで重要ではない駅を経由し、あとは知らない土地へと消えていくようだった。ベッドタウンのみを経由している。仲間と共に乗り込むと、満員のバスはゆっくりと走り出す。

しばらく立ったまま寝ていたらしい。既に太陽は昇り、車窓からはずいぶん下に街並みが見える。先ほど見上げていた橋の、道路部分の一段下を走っている。ちょうど瀬戸大橋のような構造になっているようだ。赤茶けた鉄骨と太陽の眩しさの間に、眼下の桜が満開となって広がる。砂っぽい空気と妙に静かな車内に桜だけが浮いている。ああ、自分が記憶を失っていたのは数日どころか数週間だ。桜はいつの間にか咲き、自分は何か大きなものを失っている。言いようもない焦燥と不安、そして安堵が押し寄せ、涙が溢れて止まらない。


夢はなにかを示すという。ひとつ言えそうなこととしては、精神が完全ではないのだろう。最初から自分は撃たれる予定だったのだろうか。首と頭を撃ったのはケネディ暗殺を重ねたのだろうか。記憶のない労働、あまりの疲労。船にあった巨大な丸ノコ。ゆっくりと大きな破壊が近づいていることを示しているのかもしれない。

とはいえ夢は夢なのである。あまり気にしても良くない。ここに書いて忘れてしまおう。

@nullhiko
しがない音のデザイナー