印象的だったシーン。
主人公がバスの中で隣に座ったおばあさんと肩が触れ合ったとき、すみませんと声をかけて、それにおばあさんが特に気づいていなくて何のこと?と聞き返したら、主人公が肩が触れて、と話したら、ああいいのよ、というような返事をした場面。
バスのシーン こんな日常の些細な場面を切り取って映画の1シーンにあることがとても意味のあることに思えた。なんてことはない、でもここで無視するのでもなく、嫌な顔するのでもなく、ただ淡々としている淡白さが良かった。恥ずかしさとともすれば怒り、苛立ちを表現できそうなところだが、平然としている様が心地よい。2人の見知らぬ他人同士に流れる距離感が、温度がちょうど良いと思った。
タネのこと その後、ポケットからいくつかタネを出していたが、これはこの主人公が出会った大切な人や物のメタファーじゃないかと思う。気づいたらポケットに入っていたと言っていたように、その人が生活してきた中で気づいたら大切になっていたもの。(思い出と言ってもいいかもしれない)そういうものって意識してこれが大切だ、というものではなく、本当にふと、気づいたらそこにあるものなのかもしれない。
Merci 登場人物たちがよくMerci(ありがとう)と伝えるのが印象的だった。苔採集のときに鞄を渡したときとかビスケットを渡したときなど、中華料理店でご飯を食べているとき、些細なことでもありがとうと伝えることが印象的だった。親しさの中で親切さを忘れてしまう時もある、でもどんな関係でも些細なMerciを伝え合うのは人と人がつながり、過ごしていくために大切なことだと思う。
苔 この映画を見て苔ってこんなに美しいんだ、ということに初めて気がついた。公園に行っても草木、花ばかりに目がいき、苔というものにそんなに目が行くことがなかった。じっくり、丁寧に苔が生きている様を見ていると、こんなに美しい生き物をどうして今まで見ていなかったのだろう、と目から鱗だった。
人 この映画の主要人物が皆、ベルギーに住む移民の人だった。肉体労働をしている人も、配達員も、シュテファンの姉も、中華料理店の叔母も。生活や雇用の面で安定しない人たち、だけどあまり光が当たらない人を描いていた。はみ出したり、描かれない人を描くことに重きを置いている監督なのだろう。
好きなシーン。植物学者が森で通行人とすれ違う時端によけて笑顔を向けるところ、シュテファンの姉がせがまれて昔話をしようとするところ、コップでスープを飲みながら互いの手をさするところ、見ず知らずの家庭菜園のおばさんと立ち話しながらバス停へ歩くところ。
修理工のおじさんの手術の話 皆集まってくれて泣いたんだ、と吐露したシーン。高齢男性しかも肉体労働というマスキュリティーが強いコミュニティーにいる人が泣いた、と話すシーンはとても印象的だった。普通もっと”男性としての強さ”を誇示することもできるようなエピソードだが、ある意味では”弱さ”を年下の若い男性に話す、ということは印象的だった)、
16mmフィルム とっても好きな質感。
シュテファン 苔の植物学者と出会い、森を散策している時、彼は10歳の少年に戻っていたのではないか、蛍を手の中に包んだ時、苔に触れた時。これは現在の資本主義の中で人間が作った建造では起きない、自然の中だからこそ彼は子供になり、そして肩書きや現実の苦しみから離れ、自分自分に戻れたのではないか。
シュシュ 自然な人本来が持つ美しさがある。化粧気がないのに凛としてさっぱりとした強さを感じる。とても好きな雰囲気の女性。